【風が還る場所】
第一章 緋衣の風
「ねえ、“風”って何処から吹いていると思う?」






漆黒の髪を風に靡かせながら、少女は目の前の少年に問う。






「ど、何処って…。ンなの知らねえよ!」






脈絡のない質問に、いつもの如くぶっきらぼうに答えてみせるのは緋色の衣を纏った半妖の少年、犬夜叉。






「だよねー」






くすくすと笑いながら、犬夜叉に背を向けるように目の前に広がる景色に目を向けるのは
この時代には似使わない苔色の着物を纏った少女、かごめ。






その眼差しは、遠くを…そう、遠くだけを見つめていた。
この広大な景色の更に向こう側を見つめるような瞳。
遠く遠く離れた、自分の故郷を思っているのだろうか…。
傍にいながら、遠くに行ってしまう様な少女に不安を覚えて、犬夜叉は慌てて口を開いた。






「じゃあ、かごめ。おめえは知ってるのか?」
「知りたい?」






眩しいばかりの笑顔を湛えながら、振り返るかごめ。






「べっ、別に」






つい、顔を逸らしながら答えてしまう自分を少し情けなく思いながらも、やはり顔は逸らしたままである。






(ったく。いきなり、ンな顔すんなよな…)






どうにも、自分は彼女の笑顔に弱い。
惚れたきっかけとなったのが、彼女の笑顔なのだから仕方ないといえば仕方がない。






彼女の笑顔は自分を癒してくれる






温かい気持ちにしてくれる






しかし、同時にむずがゆい様な恥ずかしい様な感覚に襲われるのだ。
きっと今も、自分の顔は茹蛸のように真っ赤になっているだろう。
そんな顔を見られるワケにもいかない。
故に咄嗟に顔を逸らしてしまうのだ。






本当は、少しでも多くその笑顔を見ていたいのに…






少々(?)スレてしまった性格は、今すぐどうこう出来るものではないのだ。






「犬夜叉みたい…」
「へ?」






またしても脈絡のない発言に、ついかごめに振り返ってしまった。






「風が…よ」
「は?」






「だから、犬夜叉は風みたいだなって…」
「そりゃ、おれの鉄砕牙には『風の傷』が…」
「もう!そういうことじゃなくて!」
「じゃあ、何だよ!」






一体、かごめが何が言いたいのか分からないので、つい不機嫌な声をあげてしまう。






「何て云うかさ…ほら、犬夜叉はまるで風みたいに動けるでしょ?ほとんど飛んでるっていうか…」
「まあ…そうだな」
「初めはね、『風をきってる』って感じだったんだけど、最近思うのよ」
「風をきるでもなく、乗るでもなく…犬夜叉自身が“風”みたいだなって…」






(おれが…“風”…?)






未だ何が何だか分からない自分を尻目に、かごめは話を続ける。






「あんたは落ち着きないし、短気だし、すごく気まぐれ」
「なっ、てめ…」
「目を離すとふらっと姿を消しちゃうし…。でも、私や皆に何かあると飛んできてくれる」






そして、不意にかごめは両手を大きく広げた。






「あたしは、こうして手を広げても飛べないわ。でも、あんたは違う…」
「その緋の衣を翻せば、あんたは飛べる。あたしはね、あんたの動き回っている時や飛びあがる姿がね、うらやましいのよ。……風のように飛べる”自由”なあんたがね」
「あのなー、おれは別に飛んでるわけじゃねーぞ!人間とは体のつくりが違うだけでぃ!」






自分の瞳を真っ直ぐ柔らかに見つめ、素直な気持ちを告げられる事が気恥ずかしくて、つい憎まれ口を利いてしまう。
しかし、かごめはそんな事には気にも留めずに、瞳を僅かに空に向けて続けた。






「"風"よ…少なくともあたしにとってはね。気まぐれで、いつも違う風を吹かせるのよ。優しい風だったり、激しい風だったり…」
「……」






一言一言を確かめるように口にするかごめの表情は、どこか寂しげで憂いを含めている。
いつもの少女の顔とは違う、何処か女の顔をした彼女…。






不意に彼女は、目線を空から落とし遥か彼方を指さした。
広大に広がる…青い…青い草原を…そして、一陣の風が自分達を駆け抜けた…






「あそこが“風”の生まれる場所よ」











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