―――――――いつからだったろう















“ひとり”が不自然になったのは…



















―――――――いつからだったろう









“ひとり”が不安になったのは…

















―――――何時の間にか当たり前になったコト…







―――――何時の間にか得たナカマ…







―――――何時の間にか変わったジブン…







―――――何時の間にかそばにいるヒト…















―――――――いつからだったろう













“ひとり”が寂しいと思うようになったのは…
【不機嫌な心…不安な心…そして…】


空が高くなった冬のある日の夕方。

辺りに響くは、子供達の元気な笑い声や無邪気な言葉。





しかし、ここにその微笑ましい光景とはうって変わって実に不快な雰囲気が漂っていた。

それもまた、何時もの光景でもあった。





「遅いっっ!!!」



苛々とした少年の不機嫌な声が木霊した。







(((またか…)))







不機嫌さ満載の少年を取り囲む面々が同時に心で大きな溜息をついた。







誰か人助けをした時…





恋敵が現れた時…





新月の時…







少年の不機嫌なる原因は多々ある。



有り過ぎると言って良い程ある。



どれもこれも分かりやすいのだが、今回はこの場にいない“彼女”が原因。











―――――そう。







“彼女”がいないことが原因。













「そんなに会いたければ、迎えに行ったらどうです?」



有髪の法師、弥勒は手元の茶をすすりながら飄々と呟いた。



「なっ…お、おれはっ…。」



頬を染め、明らかに動揺してみせる少年。

更に追い討ちをかける様な声が次々かかる。



「そうじゃ、犬夜叉!迎えに行ってこい!」



「そうだよ。苛々されちゃー、鬱陶しいだけだし。」



「鬱陶しいって何だよっ!?」



次々と浴びせられる罵倒に、獣耳をピクつかせながら荒げた声をあげる。



常人ならば、この鋭い眼つきと荒い声に竦んでしまうかも知れない。

しかし、すっかり慣れてしまった仲間達には何の威嚇にもなっていなかった。



「かごめ様がいなくて寂しいからって、私達に当たらないで下さいって事ですよ。」



「だっ、誰も寂しいなんて言ってねぇっ!!勝手に脚色すんなっ!!

 おれは絶っっ対に迎えになんか行かねえからな!!!」



(本当に正直な男だな…)



顔を真っ赤にしながら、あわてふためく彼は実に素直だった。

あまりの素直さに、もう少しからかいたい衝動にかられる。



(さて、ここまでですかな…)



このままでは、彼はすっかり臍を曲げてしまうのは明白。

弥勒は、湯のみを床に静かに置くと外に向かって視線を投げた。



「そう言えば、そろそろ日が落ちる刻限ですな…

 最近は、妖怪だけでなく野党やらも多くなっていますし…」



「……」



この言葉に犬夜叉の敏感な獣耳は大きく反応した。

その反応を横目でチラっと確認すると、弥勒は錫杖を手に取り立ち上がった。



「どれ、ここは私が行きましょうかね…」



弥勒の手が暖簾に掛かったその時、刀の鍔が鳴った。



「ったく、しょーがねえなっ!」



暖簾にかかった弥勒の手を少々乱暴に払い、犬夜叉は鉄砕刀を片手にくるっと皆の方に振り向いた。



「いいか、勘違いすんじゃねーぞ!

 このスケベ坊主じゃ、それこそ何があるか分かったモンじゃねーから行ってやるだけだ!」



そう多少…というか、随分な言葉を吐き捨てながら犬夜叉は乱暴に楓の小屋を後にした。

犬夜叉が出て行った直ぐに、七宝が暖簾を押し上げる。



「もう見えん。」



彼を見送るつもりだったが、既にその姿は何処にもなかった。



「よっぽど会いたかったんだね。」



珊瑚は、くすくすと笑いながら七宝に続いて外を見やった。



「それはいいのですが、あの言葉はあんまりじゃありません?」



「まあ、仕方ないんじゃないかい?日頃の行いってもんさ。」



「ははは…」



トホホ…としょぼくれた言葉を零すも、その表情は皆と一緒でどこまでも穏やかだった。



「さてと、結構寒いし。お茶の準備でもしようかな。」



「おらも手伝うぞ!」



「では、私は水を汲んできましょう。」



面々はそれぞれ、寒い中帰って来るだろう二人を思い浮かべながらそれぞれ“迎える”準備を始めた。



かごめを待っているのは、犬夜叉だけではないのだ。

























緋の衣をまるで翼のように翻しながら、犬夜叉は“井戸”へ真っ直ぐに向かう。

その様は、まさに突風の如し。



やがて開けた森に浮かぶは古井戸。

一足飛びで井戸の前へと着地した。



腰を下ろし、井戸の中を覗き込むように食い入って底を見つめた。



井戸の底は、暗く湿った土の匂いが立ち込めている。

だが、この鋭敏な鼻は全く別の匂いも捕らえる。









“彼女”の優しくて温かいいい匂い――――――――。





彼が愛して止まない彼女の“匂い”もこの井戸には染み付いているのだ。









かごめはいつも、この暗い井戸の底から笑顔でやってくる。



今も己は、“それ”を望んでいる。





(いつから…こうなっちまったんだ…?)





直に帰って来るだろうかごめを思い浮かべながら、己自身に問うてみる。







かごめが“げんだい”へ帰る度に、自分は不機嫌になり、仲間に当たり、我慢出来なくて結局ここに来てしまう…。





『どうして犬夜叉は、大人しく待っていられないのじゃ?』





ふと以前に七宝が零した言葉が脳裏に浮かんだ。





(確か、あん時は…)





『寂しいからですよ。かごめ様が傍にいないとダメな男ですからね。』



『そうじゃな。犬夜叉はかごめがおらんとダメな奴じゃ!』





(そうだ!わざわざおれに聞こえるように言ってやがったな。)



















寂しい?











かごめがいないとダメ?













あの時は、とにかく人をからかうような台詞が聞き捨てならなくて、二人を怒ついたのだが、今改めて思う。

















―――――おれが苛々するのは…









“かごめがいないから”





否定できねえ…な。











“寂しい”





子供じゃねーんだ…



けど…









“かごめがいないとダメ?”





確かに…調子が出ねぇ…













でも…何だ?



かごめがいないと自分らしくねえのは何となく分かるような…。









(あ″――――――っ!!ガラじゃねーってんだっ!!!)











何となく恥ずかしい気持ちに駆られて頭を左右に振る。



元々考える能力に事欠く彼だ。

こう途中で投げ出すことも珍しくもない。





「だいたい!あの野郎が“てすと〜”なんて言って、とっとと行っちまうのが悪ぃんだっ!!!

 べんきょーなんて、こっちでやればいいじゃねえかっ!!

 それを何だ!わざわざ3日も向こうに帰るなんてよっ!!」



はあはあと息を切らせながら、一気の不満をぶちまけるその姿はとにかく情けない。



絶叫の後、犬夜叉は身を乗り出して井戸の底を見つめた。

先程の言葉とは裏腹に、彼の表情は暗く、獣耳も垂れ下がり何処か寂しげだった。





(かごめの馬鹿野郎…さっさと帰ってきやがれ…)













今まで幾度こうして井戸を覗き込んでいたのだろう――――――。









ただ、ひたすら彼女の帰りを待っていた。





3日も経てば…我慢出来なくて、止められているにも関わらず、迎えに行っては怒られていた。











(この井戸が…おれとかごめを繋いでいるんだよな…)



















――――――たまに思うことがある。









いや…かごめが帰る度――――――







ここでかごめを待つ度に思うこと――――――

















――――――それは…















『いつまで…この井戸は繋がっているのだろう?』







『いつまで…こんな時を過ごせるのだろう?』















『いつまで…一緒にいられるのだろう…?…』















いつも…いつも思うことだ。















いつから、こんなことを考えるようになったのかは…自分でさえ、もう分からない…。





それでも、かごめが帰る度に思うこと。





考えてもキリがないのは、重々承知してはいる。





それでも、この感情は留まるコトを知らない。









言いようのない寂しさ…





空洞の如き虚無感…





全身をめぐる虚脱感…









そして…











どうしようもない孤独感…

















何もかも、以前の自分からは全く信じられないものばかりだった。





かごめがいないことで、最も強く感じる孤独感は、信じうる“仲間”が傍にいても必ず生まれてしまう。





自分でも全くどうしようもないのだ…













かごめに出逢ってから…







かごめはずっとそばにいる…









――――――そばに居るのが…当たり前なんだ…















かごめがいないことで気づく感情―――――。







そばにいるのが当たり前で…当たり前過ぎて







いつも見えない。









かごめが“帰る”と途端に溢れ出て…とめどなく流れ続ける想い…











“寂しさ”













だから、いつも会いに行ってしまう。











この孤独から救って欲しくて…







この寂しさが耐えられなくて…







優しい匂いを感じたくて…











…笑顔に…逢いたくて…















気づいた時、自分はかごめの部屋の窓に足をかけていた。









(やべ、また来ちまった…)









無意識の行動。













そして、ゆっくりと長い爪の手を窓にかけた。







――――――ガラガラ…









窓を開けた途端に香る、かごめの“匂い”





少し甘いような…優しい香り





「あ…」





視線を右に向けると、そこに彼女はいた。



机に伏した姿で――――――





(なんでぃ、眠ってるのか?)





起こさぬよう注意しながら部屋へと踏み入れる。



そして、ゆっくりその寝顔を覗きこんだ。



“しゃーぷぺん”とやらを握ったまま、“さんこうしょ”に覆いかぶさるように眠っていた。





「こんなところで寝やがって。」





憎まれ口を叩きながら、ふっと顔が緩むのが自分でも分かった。



そっと瞳にかかった髪をどけてやると、彼女の長い睫があらわれる。



指先でそっと頬に触れるも、一向に目覚める様子はない。





(しょうがねえな。)





このままでは風邪を引くだろう…



そう思って、かごめの身体をゆっくり抱きかかえた。



もちろん起こさぬように気をつけながら。







“べっと”とかいう寝床に横たわらせて、布団をかけてやると、わずかにかごめの顔が綻んだ気がした。





「しょうがねえから、おめえが起きるまで待っててやらあ。」



わずかに上下する布団の上から、ポンポンと軽く叩いてやる。



ひたすら、その寝顔を見つめながら…

















――――――かごめがいる













それだけで、先程まで厭というほど感じてた“孤独感”も“寂しさ”も“不安”も掻き消えていた。









かごめがいる。







その香を感じる。







温もりを感じる。











手の…届くところにいる…













……そばに、いる……   













それだけで、こんなにも自分は変わってしまう。







安心して、心が凪ぎる――――――。















先が見えない不安な心も…







未だ決まったワケでもない、離れる時を恐れる心も…







孤独や寂しさに震える心も……

















“今”は癒されている。







不安はいつも心に燻っているけど…







“今”は大丈夫なんだ―――――。











かごめがそばにいるならば







手が届く程、そばにいてくれるなら…







そばにいられるなら















どんな“不安”も“孤独”も“寂しさ”も















全て越えられる













全て受け止められる













大切なモノを護る“チカラ”となる―――――…

















だから…

















「起きたら…笑ってくれ。」











「そんで、一緒に帰ろうな。」



























不機嫌な心…不安な心…

















そして…



















――――――温かい心…



















fin

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【不機嫌な心…不安な心…そして…】



今頃やっとの“初短編小説”

とりあえず、一体何が書きたかったのかよくわからないコトに…



単純に【かごちゃんを待つ犬くん】を書きたかったのに何だか毛色が違う。

しかも、犬かごっていうより、犬→かごのみな感じ…



まだまだ修行が必要ですね、ハイ!



次は、まずはキリリク。

そしたら、長編小説の“流るる〜”の本編辺りを…



H16.11.25 Thu.17:15

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