色彩混じる空間を彷徨い






やがて、一筋の白光が眼前に現る






そこは






もうひとつの世界への扉

【St.Valentine's day】
五、その手を伸ばして
「あと…少し…っ…」






暗い暗い井戸の底を必死に蔦をつたって這い上がるかごめ。






「あと少しだ…」






夜の森を、その銀の波をなびかせながら駆け抜けている犬夜叉。






今、まさに






合間見えようとしていた――――――






漸く井戸から這い出たかごめ。
井戸から飛び降り、乱れる呼吸そのままに駆け出そうとしたその瞬間。
瞳に映ったのは、求めた緋色だった。






「…犬っ…夜叉!」






月の明かりの下、その銀髪はよりいっそうの美しさを増している。






「かごめっ」






だが、彼も駆けて来た…と分かる程に、その髪も呼吸も乱れていた。






「迎えに来て…くれたの?」






もたれる足を、必死に前へと出す。
ゆっくりではあるが確実に、かごめは犬夜叉に歩み寄った。






「…ぁあ……」






普段では到底考えられないような素直な言葉。
小さな小さな声だったが、かごめにはしっかりと聞き取れた。
絶対にそんなことは言わない彼。
しかし、今ここに羞恥はなかった。






ドクン…ドクン…ドクン……






心音が響き渡る。
相手に聞こえてしまいそうで…
でも、歩みを止めるなど出来ない。






「こ…コレ…」






なぜか震えだした両手。
震える手で紙袋を探り、何とか取り出した。
桃色の包装紙に赤いリボンで飾った大事なモノ…
かごめの手に包まれたものに、瞳を見開いた。






「…おれに?」
「ぅん…」






いつもの強気のかごめとは異なる雰囲気。
声も弱々しくて…身体も震えて…






そんなかごめを見やりながら、犬夜叉はひとつ大きく深呼吸をした。
犬夜叉の長く鋭い爪を持った手が、ゆっくり伸びてくる。
その手も、また少し震えていて…






そして…






漸く






届いた






かごめの手を離れ






それは






犬夜叉の手へと移った






「……」






小さな沈黙。
犬夜叉は、未だ少し震える手に力を籠めて、しっかり小さな包みを持つ。






ビリッ―――――…






静寂に響いたのは、紙の破れるその音。
爪の長い不器用な指先で、桃色の包装紙を開けようとしている。
普通ならば開けて良いものかどうかを問うものだが、今この場にそんな言葉は要らなかった。
箱を開けて見ると、そこには可愛いハート型のチョコレートが顔を出した。
それに食い入るように見入る犬夜叉。
そして、ゆっくりそれに手を伸ばした。






パキッ――――――






チョコを小さく割って、そのかけらを口にした。






「甘ぇ…」
「うそ!?甘いの苦手だから砂糖は随分控えめにしたのに。」






そんなはずは…と思うかごめは、慌てたように犬夜叉の顔を覗き込んだ。






「甘えよ。」
「……」






かごめは、シュンと下を向いて落ち込んでしまった。






「…ぁりがとな……」






じっと地面を見つめていたかごめの顔が瞬間的にあがった。






「え?…犬夜叉、今何て…?」
「……」






犬夜叉は、努めて平静な面持ちを保とうと顔をそらしていたのだが…
その顔は真っ赤だった。






でも、確かに聞こえた。
とても小さな声だったけども…
だけど聞こえた。






―――――『ありがとう』と…






かごめは、その獣耳まで真っ赤にした犬夜叉に一笑すると、その黄金色の瞳をじっと見てうなずいた。
いつもの優しい笑顔と共に…






「どういたしまして。」
「けっ」






どこまでも不器用な彼。
内心は彼女の気持ちが嬉しくて仕方なかったけど。
いつもうまく伝えられなくて
生来からの気恥ずかしさと意地と…
いつでも素直で真っ直ぐなかごめの前では、自分はどこまでも子供で…






(でも、ちゃんと言わねーと…)






謝らなくてはならない。
彼女は、こうして何時も通りの“笑顔”を自分にくれたけど…
間違いなく…傷ついていたのだから…そう、心で決心した直後だった。






「ごめんね…」






今、自分が口にするはずだった言葉。
しかし、先に口にしたのは…かごめだった。






「あっ…」






先に越されて…いや、思ってもみなかった展開についていけない犬夜叉は呆気にとられてしまった。






「あたし、意地張っちゃって…それに…犬夜叉は戦国時代の人なんだから、こっちの風習なんて知らないの当たり前だったのに…」
「い、いや…」
「ほんとに、ごめんなさい。」






深く頭を下げるかごめ。






(違う…謝るのは…)






「…お前は…悪くねーよ。」
「でも!」
「悪くねえ。…お前は悪くねえ。」






瞳を閉じて、大きく息をすった。






「悪かった。」
「犬夜叉?」
「言い過ぎた。悪ぃのは…おれの方だ。」






かごめは、その瞳を大きく見開いた。






(う…そ…?)






「勝手に勘違いして…おめぇの気持ちも考えねーこと言っちまった。」
「うぅん。あたしの方こそ…」
「だから、おめぇは悪くねーって!」
「でも!」
「いいってのっ!」






お互い、自分が悪いの一点張りが続く。






「悪いのはあたしなのっ!」
「おれだ!」
「あたしよ!」
「おれだっての!」






段々と激しさも加わって、二人はいつの間にか呼吸を乱しながら言い争っていた。






「ほんっと意地っぱり!」
「強情だなおめーは!」






お互い一歩も譲らない攻防。

漆黒と黄金色がぶつかり合う。






「「ぷっ…」」






二人は同時に吹き出した。






「やだ、これじゃあまた喧嘩になっちゃう。」
「おめーが折れねえからだろーが。」






言葉はきついものの、そういう犬夜叉の表情は何処までも優しい。






「じゃあ、こうしよう!」
「あ?」
「喧嘩両成敗!…ね?」
「ったく、おめーはよ〜」






いかにもいい案だと言わんばかりのかごめを見て、犬夜叉も何か糸が切れたように肩の力が抜けた。
大きくため息を吐く。






(ホント…適わねーよ…おめーには…)






「…にしても」
「なあに?」
「コレ、やっぱ甘ぇよ。」
「もう!だからごめんってば!」






やっぱり味見するべきだった…
かごめは心底後悔した。






初めて作って…作るのに夢中で、全然味見もしなかったのだ。
甘い甘いと言われるとどうしても気になる。
どのくらい甘いと言うのだろうか?
少なくとも、みんなにあげた既製品のチョコよりは甘くないはずなのだが…






「ねえ、犬夜叉。それちょっとあたしにも…って!?」






少し分けて貰おうと犬夜叉に向かって言おうとしたのだが、時すでに遅し。
箱の中はすでにからっぽ。






「全部食べちゃったの!!?」






そう、犬夜叉は『甘い甘い』と言いながら、あずかり知らぬ間に全て平らげてしまったのだった。






「あぁ。それがどうかしたか?」






指にわずかについたチョコを舐め取りながら、あっけらかんと答えてみせた。






「ちょっと食べてみたかったのに〜〜!」
「あ?だってこりゃー、おれにくれたモンだろーが?」
「そうなんだけど…ほら、あんなに『甘い甘い』言われたら気になるじゃない?」
「ふ〜ん」






さもどうでも良さそうな返事をする犬夜叉。
大きく溜息をついてがっかりした様子のかごめを見やった。






「だったら、早く言えば良かったじゃねーか?」
「こんなに早く食べ終わるなんて思ってもみなかったんだもん。」
「…ったく」






ズカズカとかごめの目の前まで来ると、犬夜叉は頭1コ分違うかごめを見下ろした。






「何?」






そう言って顔を上げた瞬間だった。












―――――え…?












黄金色の瞳に射抜かれた。
普段の幼い犬夜叉からは想像しえない真剣な瞳。
一瞬で射抜かれてしまった。
薄霧のような感覚に包まれ、全身の感覚があいまいになっていく。
顎に指を添えられて、唇に柔らかいものが当てられた。
それが、犬夜叉の唇だとわかった瞬間には、自分の口の中に生温かいものが流れ込んで、そしてそれはすぐ離れた。






「…甘い」






初めに思ったこと。






「やだ…ホントに甘い…」






今起こったことに混乱していたのだが、それでも感じるのはチョコの甘さだった。






―――――何と色気のないこと






そう思うかもしれない。
でも、純粋に思うのは甘さで…
何が起こったのかは十分に分かってはいるのだけど、恥ずかしくて…顔が熱くって…






「これで分かったろ?///」






そう言う犬夜叉の顔は、先ほどよりよっぽど赤かった。






「…ぅん///」






(何やってんだ///おれは!?)






自分からしておいて、後から来るこの感覚には耐えがたくって…かごめの顔を見ていられなくなってしまった。






(あ――――っ、ちくしょうっ!!!)






情けないと思った。
背を向けて、今してしまったことの恥ずかしさに耐えるように頭を掻き毟る。
先におさまってきたのはかごめの方だった。
大きく深呼吸して、熱くて仕方ない顔を大きく振って、ゆっくり犬夜叉を見やった。
犬夜叉は、未だ背を向けながら落ち着きない様子で頭を毟る。






(自分でしたくせに…)






なんだかよく分からない感覚。






むずがゆいような






くすぐったいような…






胸に積もる思いと向き合いながら、犬夜叉の背を見つめ思ったこと。












―――――すごく愛しい












そう思った。
心から…





可愛くって、なんだか幼い子供のように慌てて…
そんな姿が愛しくって仕方なかった。






その背中にしがみついた。
抱きしめたい衝動に抗うことなく…






「かっ…かご…!?」






突然、背に感じる温もり。
混乱してるそばから、更にあおりを受けるように感じる温もり。






「なっ、ななな、何だよ!??」






乱れる心そのままの発音。
心の臓が飛び出そうな感覚。
慌てて、回されたかごめの腕を引き剥がして振り返った。






「ごめん。何か身体が勝手に…」
「あっ…」
「犬夜叉…なんか可愛くて…」
「かっ、可愛いって、おめぇ!?」






ふふふっと笑みを浮かべながら、真っ直ぐに見つめられた。
柔らかい、温かい微笑。






「今日はね…好きな男のコにチョコを渡して、告白をする日なのよ。」
「あ…あぁ…聞いた。」
「だから…」






かごめはそう言うと、犬夜叉の首に腕を回して、その獣耳を引き寄せて…
そっと囁いた。






他の誰にも聞こえない程の声で






優しい声で












「――――…だよ」












―――――二つの世界を繋げるこの場所。












―――――月明かりの元で












見えるは












銀髪の緋衣の少年と












苔色の着物の少女が












幸せそうに抱き合う姿












ただひとつ












〜Happy Valentine〜

















…END











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【St.Valentine's day】

終わりました!!!
やっ〜〜〜〜と終わりました!!

しかも、何だかワケ分からないような話になってしまいました!

一応、犬かごvvvなラストにしたつもりですが…
如何なものでしょうか??

色々と逃げたいところもありますが…





しかし、長かったです。
ハイ!
2月のバレンタイン前に始めて…終わったのが4月!!
バカです!

しかも、当初は短編で終わらせるつもりが、中編並の長さに…





数日展示したら、中篇に移動させます!
短編とは言えないので…さすがに…

ご感想等ありましたら、是非お願いします!





そして…
時間がかかってしまった中、読んで頂いて有難うございました!


更新日時 H17.4.2 Sat.22:47

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