【クリスマス・イヴ】
七、幻想的な景色の中で




















数多の幻想的な光に包まれた街並みは、普段の活気に包まれつつあった。
イルミネーション点灯時は、そのあまりの美しさに言葉を呑み込む人間が殆どだったのだが、あれから数十分ともなると慣れが生じるのか、あちらこちらでクリスマスを祝う大きな歓声が聞こえた。









蓮に手を引かれながら、その隣を歩くキョーコはそのような人々とは対照的に、相変わらずその景色に魅入られているようだった。
うっとりと見惚れたり、子供のように瞳を輝かせたりと、とにかく落ち着きがない。
落ち着きなくキョロキョロとしているせいか、これまでに幾人の行き交う人にぶつかったり、ぶつけられたりとしていた。

そんなキョーコに苦笑しながらも、その身を庇うようにして蓮は気を配って歩いているおかげか、それもだいぶ改善されつつあった。









「本当に嬉しそうだね?」
「え?何ですか?」









完全にメルヘンの国に足を踏み入れていたキョーコは、すぐ隣の蓮の言葉さえちゃんと届いていないらしい。
突然声をかけられたので反応を示した程度といったところだろうか。









「嬉しそうだね、って言っただけだよ。」
「そ、そう見えますか?」









やはり無自覚だったか、と蓮は更に苦笑の色を強めた。
一方のキョーコは“そんなつもり”は微塵もなかったので、蓮の言葉に首を傾げた。









(私、何か変だったのかしら?)









天然メルヘン癖を持つキョーコには、一体何がおかしいのか皆目検討がついていなかった。
無自覚なのだから仕方がないことだが。









キョーコは蓮の言葉を不思議に思いながらも、辺り一帯に施されているイルミネーションに目を向けた。
幾重にも重ねられた色彩が見事に調和し、静かな点滅を続ける光は本当に美しいものだった。
多くの人が、この寒い中であるにも関わらずに、この為だけに集まるのも納得がいくとキョーコは思った。









チラリと視線をズラしてキョーコは蓮の顔を見上げた。
先程までは手を引かれるようにして歩いていたのだが、いつの間にはその歩調はキョーコに合わせられ、今はその隣をゆっくり歩いている。










そして気になるのが、すれ違う人々の視線だった。
普段と雰囲気が違っていても、顔を半分隠していても、蓮のおよそ常人とは違うオーラを隠すまでには至っておらず、チラリチラリと見られていた。










幸い今のところ“敦賀蓮”だとバレてはいないようだったが、隣を歩くキョーコはいつバレるかと気が気ではなかった。
とにかく見られる視線の数が半端ない。男女を問わない視線が蓮だけではなく、その蓮に手を引かれて歩いているキョーコにも突き刺さっていた。









(うっ……やっぱり……すごく目立っている……し、視線が痛いっ……)









人並み外れた長身も目立つ要因にはなっているのだろうが、造形の美しい顔はサングラスやマフラーで隠していても感覚的に捉えることができるのだろう。振り向く人々が口々に「あの人カッコイイよね?」とか「イイ男だわ」とざわめく声からそれは判断することができた。










隣を歩いているキョーコに対してもかなりの視線が注がれていた。
それは所謂“いい男の隣を歩いている女”に対する嫉妬交じりの視線が多く、さすがのキョーコもその視線には耐え切れないようだった。









(……妬み僻みのオーラがバシバシ伝わってくるわっ………そりゃ隣を歩いているのが私なんかじゃ、ムカつきもするでしょうよ……)









キョーコ自身気がついていないことなのだが、確かに視線のほとんどは妬み僻みの色を宿している。
だがそれは、キョーコが思うような視線とは少し異なっている。









「どうした?難しい顔なんかしちゃって。」
「え?」









すっかり自分の世界に入り込んでいたキョーコは、自分の顔を覗きこむ蓮の視線と声によってようやく呼び戻された。









「大丈夫?気分でも悪い?」
「あ……いや、そうじゃないです。………ただ…」




「ただ?」
「……視線が痛いなって思いまして」









キョーコの回答に蓮は一瞬だけ目を見張ったが、すぐに得心がいったように微笑んだ。









「……君は目立っているからね。仕方がないよ。」
「は?」









“目立っているのはむしろ貴方なんですが?”と口をつきそうになったが、次の蓮の言葉でそれは泡となった。









「君の綺麗さに誰もが振り返っているからね。」
「……………」




「もっとも君は全く気づいてないようだけど……」
「………?」









(……何を言ってるの?綺麗って誰が?目立ってるのは敦賀さんの方でしょ?)









瞳を大きく開けたまま微動だにしないキョーコを見つめて、蓮は「ああ、やっぱりね」と呆れたような笑いを零した。

キョーコは全く気がついていなかったのだが、キョーコ自身が見られていたのは、何も蓮の横を歩いているからという理由だけではなかったのだ。










キョーコ自身の魅力がその理由である。

プロのメイクやスタイリストによって飾られた容貌は、普段のあどけなさや幼さを感じさせない程に麗しい。
だが、美しいだけかと問われればそうではなく、年相応の可愛らしさも兼ね備えていた。









少女と大人の狭間にある今のキョーコ。
いずれは大輪を咲かせるであろうが、現在は膨らみはじめた蕾。
その微妙な時期を象徴するかのような、美しさと可愛らしさを合わせ持つキョーコの雰囲気は十分に人目を引くものだった。









未だに首を傾げているキョーコだったが、蓮はそれについてはこれ以上何も言う気がないらしく、右手につけていた時計をサングラスを少しズラして見た。
時刻は間もなく20時を少し過ぎたところだった。









「もうこんな時間か。最上さん、そろそろご飯にしようか?お腹空いたろう?」
「……え?あ……はい!」





「それとももう少し見る?」
「もう十分です!たくさん見て、目に焼きつけましたから!」









キョーコは実に朗らかに笑うと、蓮も頷くように微笑んだ。









(……それに、バレない内に早く立ち去った方が身のため……)









どうしても気になってしまう人々の視線に、いい加減耐え切れなくなっていたキョーコは、ほっと安堵の溜息を漏らした。




















          *




















場所は変わって、ここは蓮の自宅マンション。









夕食を摂るのに、何を食べたいかと蓮に問われたキョーコは、「夕食なら私が作ります」と提案をした。
もちろんその裏には、これ以上一緒にいてどこかでバレてしまったら洒落にならないというキョーコの考えがあった。









以前、代マネをしていた日に蓮とキョーコは、ファミレスに立ち寄ったことがある。
その時に女子高生と思われる集団にバレそうになったことがあった。
幸い「あの敦賀蓮がファミレスにいるわけがない」という女子高生達の意見でバレるまでには至らなかったが、かなり危険であったことは言うまでもなかった。









しかも今日は社がいない。
社がいれば、まだしも完全に蓮とキョーコの二人きりであり、ましてや、クリスマスイヴという狙ったようなタイミング。
わざわざ危険な橋を渡る必要はないので、こうして蓮のマンションでキョーコが料理を揮うことになったのだ。









「ご馳走様でした。」
「はい。お粗末様でした。」









夕食を食べ終え、手を合わせて食事の挨拶を終えた蓮は空いた皿を丁寧に重ねる。
キョーコは、その重ねられた食器をキッチンへと運び、食後のお茶の準備する。
冷たい烏龍茶を透明なコップに注いで、蓮に手渡す。









「ありがとう。しかし、本当に料理上手だね。」
「と、とんでもないですよっ!!」









真正面から褒められることに慣れていないキョーコは、手を大きく振りながら大慌てで拒否の意を示すが、それも蓮の笑顔の前には無意味だった。









「そんなに拒否しなくても。本当においしかったよ?」
「………は……はい………ありがとうございます……」









赤らむ顔を俯かせながら、キョーコは小さな声で返事をした。
それから二人で後片付けを済ませ、大きなソファに並んで腰掛けた。
食事の時につけたテレビをそのまま流れていたので、今部屋から聞こえるのはその大きな液晶型テレビから流れる音だけだった。









「疲れたろう?少し休んだら下宿先まで送っているから。」
「あ、はいっ!どうもすみませんっ!」





























それからしばらく、他愛ない話を交わしたり、テレビを見ながら笑い合ったりしている内に、時はあっという間に流れた。
キョーコはふと部屋に備え付けられていた時計を見ると、時刻は23時を大きく過ぎていることに気が付いた。









「あっ!!!いけない、もうこんな時間だっ!!」









夕食を済ませてから、そんなに時間が経っていないような感覚がしていたので、キョーコは必要以上に驚いた声をあげた。









「本当だ。すっかり遅くなっちゃったね。お家の人たちは大丈夫?」









蓮もまた時間の流れに驚いたらしく、少し焦ったような表情を浮かべていた。









「それは大丈夫です。今日は遅くなるかもしれませんと、事務所を出る前に連絡は入れておきましたから。」
「それなら良かった。でも、こんな夜中までごめんね?」









申し訳ない、といった顔を浮かべながら、蓮はキョーコの顔を覗き込んだので、キョーコもそんな顔をしないでくださいと身振り手振りで、自分は大丈夫だとアピールをする。









「本当に大丈夫ですから!そんな……気にしないでくださいっ!!!」
「……うん。…ありがとう、最上さん。」









若干不満を残しているような含みはあるものの、蓮が笑顔を浮かべてくれたので、キョーコは一先ず安堵の溜息をついた。
蓮の「それじゃ、行こうか?」という声にはっきり返事をすると、キョーコはコートを纏い、置いてあったバックを手にして蓮のマンションを後にした。





















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【あとがき】



第七話です。
またまた終わりませんでした。
とりあえず、あと一話です…すみません…
日にちがかなり空いてしまってすみません(><)

超絶に忙しい年末に乾杯!!!



作成 2007/12/30
更新 2007/12/30 23:13

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