【祈-PRAY-】 Side.R  〜 ACT.148 バレンタインXXXX 続き妄想 〜
それはある意味では衝動的だった。
今しがた決意したばかりの意思が、隠す事なく見せられた表情によって、あっさりと崩れた。
少なくともその時は、そんな崩れる音が聞こえた気がした。
眉間に深い皺を寄せ、瞳は鋭く吊り上り、歯を噛み締めるその仕草。




それが示す感情は“憎しみ”
それを向けられているのは彼の“幼馴染”
強く向けられている感情の矛先は、あの男であって俺ではない。
隣に居ながらも、今はその姿さえないあの男に強い関心と感情を向けている彼女に身体が動いた。




ソファの背に手を掛けると僅かに軋んだが、その音さえ聞こえていない今の彼女。
俯いたままの顔を上げさせるべく声を掛けた。




「……最上さん」




俺の声に気づいて顔を上げた彼女は、ただ驚いていた。




「え……」




うっすらと色付いた唇から漏れたのは、この距離だからこそ聞こえた声。
視線を唇に落とし、そのままこの距離をゼロにしようと顔を傾けて寄せる。
すると、顔を寄せた時と変わらないただ驚いた表情のまま固まっている彼女が飛び込んだ。
ふと頭に過ぎったのは、このまま進んだ後の事。
今のように固まって動けなくなるか、不破の時のように怒りをぶつけられるか。




(ああ、でも俺の場合は、軽蔑……だろうな)




いつか軽井沢のロケバスの時にも考えた事だが、俺の存在そのものを消し去ってしまうかもしれない。
不破はこの子に恨まれている。強く強く憎まれている。頭を、思考を全て一杯にしてしまう程に。
それは逆にそれだけこの子に想われていた証に他ならない。
正直、それだけは考えたくなかった。考えたくなかったが、それが事実だ。
愛の反対は憎しみ。
どんなに負の感情に覆われていても、不破はそれでもまだ彼女に思われている。それが憎しみでも嫌いでも恨みでも何でも。




だが俺はどうだ?
この子は言う。俺を尊敬していると。それは好意的な感情に違いはないが、それでも心を占める感情じゃない。
どんなに敬愛されていても、それは俺が望む愛じゃない。
尊敬の反対にある感情……それが軽蔑。
このまま気持ちの赴くままに進めば確実にそうなるだろう。




演技だと誤魔化せば間に合う?
気をつけると言った傍から、男の前で無防備になった彼女を戒めるつもりで誤魔化すか。
……それとも。




顔を最大限に寄せて俺は彼女の瞳を覗き込んだ。
こんな俺を見て、どんな感情を見せる?




誤魔化してしまえばそれでいい筈だ。
それが正しい選択だと分かっている。




今、この関係を壊したくはない。
不破のように理不尽に彼女の気持ちも汲み取らないような真似はしたくない。




なのに、どうして俺はここから離れない?
どうして動けない?




離れよう、誤魔化してしまおうと思っても、そう自分に言い聞かせれば言い聞かせる程、思い出すのは見たくもなかったあの光景。




この子に責はない。
あれは不破の一方的なものだ。




何度そう言い聞かせて、自分の都合の良いようにこの子に諭して見せても、隠し切れなかった本心。
この子にとって、俺は先輩以外の何者でもないにも関わらずに出てしまった本音。




二度目はない……?
何だ、それは?
本当に何様のつもりだ。
只の先輩風情が口にしていい言葉じゃない。
そんな権利は俺にはない。




頭では嫌という位理解っているのに、心から堰を切ったように溢れるこれは何だ?
この子が大切なら、この関係を守りたいなら今すぐ離れれば良い。
最良の選択を選んで動くだけ。簡単な事だ。




(……それなのに……何故)




理解っているのに動けない身体。
こんな状況で思い出すのは、先程の彼女。
俺だけ他の人達とは違うバレンタインのプレゼント。
あんな顔を見せて、あんな事を言ってみせて。
これまでの経験から深く考えまいと決めても、今になって揺らぐその決意。




(どうして俺に……)




あんな顔を見せる?
ああ、そうだ。
……もしも、俺がこのまま止めなかったら。




「……君はどうする?」




思わず声に出た俺の言葉に過敏に反応する彼女。




「……あの時、俺がどんな思いをしたか……」
「え?今、何て……?」




聞こえなかったのか、こんな状況でも首を傾げて見せるその無垢さが心の揺れを大きくする。
こんな脈絡も何もない俺なんかの言葉を必死で聞こうとするなんて。




「あの……つ、敦賀さん、その、もしかして、ご、ご気分でも悪く」




いつか何処かで聞いたその言葉。
確かダークムーンごっこの時だ。キッチンで積み上げた台から落ちた彼女を庇ったその時。
思わぬ事態に、所謂“テンパッた”俺がとった行動に返されたのがそんな台詞だった。
あの時は確か、かなり動揺した様子で目を泳がせていたような気がするが、今の彼女は台詞こそあの時と同じだが、表情は…。




「あの、ええっと……」




状況を打開する術を必死に考えているのか、焦りながらも言葉を紡ごうとする。
俺から目を逸らそうとしているが、ここまで近い距離ではそれも叶わないだろう。
頬は、あの勘違いを起こしそうな微笑みの時に見せた紅さを滲ませて、瞳は心なしか潤んでいるように見える。
あの時とは少し違う反応を見て、俺は一気に何かが下りるのを感じた。
そして紅くなっている頬ではない、前髪に隠れた額に軽くキスをした。




「え……え、えぇ……うぇえええっ!?」




ババっと両手で額を抑える彼女に向かって、小さく笑って見せる。
更に真っ赤になった彼女は動揺そのままで俺を見上げた。




「……お礼、だよ」
「は……い?」




今一瞬で考えた言い訳。
こんな言い訳など乙女な性格の彼女に通じる筈はないが他になかった。




「ど、どういたしまして……じゃ、なくて!お、おおお、おでこに、キ……っ、なんて……が、外国人さんじゃないんですからっ!!」




いや、俺は外国人だけどね?




「何?頬……いや、唇の方が良かった?」
「んなっ!」




声にならないのか音には出なかったが「そんな訳ないじゃないですかっ」と叫ぶ彼女の様がたまらなく愛しく、けれどもおかしい。




「本当に美味しかったから、つい……ね?」
「つ、ついってこんな事誰かに見られたらどうす……」
「ここは俺の楽屋なんだから誰にも見られないよ」
「そういう問題じゃありませんっ!!」




嫌がるよりも何よりも誰かに見られる事を気にする彼女に内心ほっとした。
心に少しだけ余裕が生まれ、波立った感情が僅かに凪ぐ。




「え、えっと……お口に合いました、か?」
「うん」
「本当ですか?」




多分自分でも何を言っているのか分からないのだろう。
疑うように何度も俺の目を覗き込む彼女。
そんな様子が見て取れる質問に苦笑する。
だが、こんな風に真っ赤になりながら口にされても困るのが本音だ。
本当に声に出して笑い出したい位に俺の理性を揺さぶるのが上手い。
狙っているのかと問いたい程に。
だから、ひとつ仕置きをしようか。
きっと毎年、あの男とのキスを思い出しては、あの男で一杯になってしまうだろう彼女に。
ほんの少しでも、俺を。




「最上さん」
「はい?」




(不破とは違う、けれども確実に残るだろう衝撃を……君に)




相変わらず疑うように伺う彼女の薄く開いた唇をそっと己の舌で撫でた。
ほんの少しだけ開いている唇の隙間をなぞるように、けれど絶対に唇同士が触れないように。
甘い柔らかな感触に理性が飛びそうになるのを耐えて、すぐに離れると、彼女は瞳孔を最大限に開いて、やはり固まった。




「ほら、美味しいだろう?」




舌に残っているかどうかなど考えるまでもない。
固まったままの彼女に笑ってみせれば、事態を理解したのか唇をふるふると震わせた。




「つ、つる、敦賀さんっ!!!は、はは、破廉恥ですっ!!こんな、こ、こんなっ!!!」
「俺が美味しいって何度も言ってるのに疑うからだろう?」
「そ、それはそう、ですけどっ、でもっ!こんなやり方はっ!!」
「全部食べてしまったし」




しれっと言って見せると、彼女はもう白いところがないくらいに真っ赤になって俺を責めた。
何度も何度も責められ、けれども向けられる感情に嫌悪感はないように見えた。
その事がどれだけ俺の心を救ったかは、彼女は知らない。




「本当に美味しかったよ。ありがとう」
「う……っ、は、はい」




何か丸め込まれた気がする、と零した彼女の声は聞かなかった事にしよう。
小さく息を吐いて、彼女が警戒しないだけの距離を空けてソファに座り、そっと目を合わせた。




「そういえば、プリンセスローザはどうしてる?今も身に着けている?」
「あ、はい!ナツの時には必ず。ナツになるには必須のアイテムですから!」
「そう。奇跡の石があれば安心だね。撮影は順調?」
「はい!この間も……」




話題をすり替えながらいつものように接する。
俺が取った行動が許される事なのかどうかは分からない。
時間が経てば、疑問に思うだろうが、それはそれでいい。
ほんの少しでも良いから俺を思い出して欲しい。




今もまだ彼女の頬が赤いのが、気のせいではなく俺のせいならば、どれだけ良いか。
そしてその赤さに嫌悪感が無いのならば、それが救いになる。




今日というこの日はこれからもずっと続く。
彼女が毎年この時期に不破だけを思い出す事がなくなればいい。
願うはただそれだけ。




……まあ、そんな事、口が裂けても君にだけは言えないけれど、ね?

























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【あとがき】


〜 ACT.148 バレンタインXXXX 続き妄想 〜 【祈-PRAY-】 Side.R



【Quiet life】 SHIRo様 の企画への突然の参加……す、すみません!
いや、もうこれは参加するしかなくって。
今の私生活の状況では無理だと思っていたのですが、今号を見てしまっては
そうも言ってられません!しかも一ヶ月のお休みは辛い!辛すぎる!
だからこそ、このお祭りで楽しい時間を過ごしたく…
けれど続きを書きたい衝動に負けました……


とりあえず一本目を投下。
これはこの企画に沿って、原作ベースで考えてみたので、
まず間違いなく皆様の期待を裏切った事でしょう(笑)
尚ちゃんのようにはせず、けれどもそれなりの衝撃を…!
それがモットーでした。


そして、今号のあのキョーコちゃんの台詞(※)にフラグを感じたので、
せめて、せめて……この位は!!!
という超個人的願いを篭めたのです。


(※)毎年この時期になると思い出す〜といった内容のあの台詞デス。


次のお話まで一ヶ月。
出来る範囲で書きたいと思っております。
……これ一本だったら…………すみません(泣)


※えっと、ウチのカテゴリ的には妄想ですが、このSSは推理になりますv



作成 2009/10/19(月) 22:02:50
更新 2009/10/20(火) 00:00:57
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