【祈-PRAY AFTER-】 Side.R  〜 ACT. バレンタインXXXX 続き妄想 おまけ 〜
一日通して続いた撮影も終わり、俺はようやく帰宅の途に着いた。
同じように一日缶詰だった最上さんを下宿先まで送ったのは先程の事だ。
社さんは気を利かせてくれたのか、用事があるとかで帰りは別だったのだが、食事後に最上さんに呼び止められ、自分の楽屋で過ごした以降は、何か聞きたそうに、それはもう遊び顔全開だったので、きっと明日は質問攻めに遭うことだろう。
それを考えると少々気鬱になるが、まあその辺りは当たり障りなく返そうと心に決めた。
車をマンション専用の駐車場に停め、エントランスを潜りエレベーターへ向かう。
今日現場の皆さんから頂いたバレンタインのプレゼントは明日事務所へ運ぶので、今俺が手に持っているのは自分の荷と最上さんから貰った誕生日のプレゼントだけだ。
可愛らしくラッピングされた少々大きめのそれを小脇に抱え、自分の部屋の玄関を潜る。
そのままの足でリビングへ向かい、上着だけ脱いでソファに投げ、俺はやっとお目にかかれるその包みに手を掛けた。




「家で見ろと言われたけど……一体何だろう?」




驚愕といっていいのか、いや、緊張というのか。
最上さんのあの時の態度は尋常じゃなかった。
プレゼントは貰ったその場で開けて楽しむのが礼儀なのだが、それは彼女に止められた。それはもう厳命に近いほどはっきりと。
彼女は言った。「私が恥ずかしいからです」と。
プレゼントで恥ずかしいというのは一体どういう事なのだろうか。
全く予想もつかない。
元々常軌を色々と逸した子だから、予想する事態が無駄とも思うが、それはこのプレゼントを貰ってからずっと気になって仕方がない。




俺の誕生日を誤植されたタレント名鑑で調べて覚えてしまった最上さん。
誕生日を間違えられてしまった事自体は特に気にしていない。
寧ろ俺なんかの為に誤った日とはいえ、それに合わせて用意しようとしてくれたというのだから、その気持ちだけでも十分嬉しかった。
勿論、義理堅い彼女の事だ。俺が彼女の誕生日にプレゼントを用意したから、そのお礼の意味が強いのだろう。
それでも俺には十分だった。
本当に、“恋”とは恐ろしい病だ。どんな事でも嬉しく感じる。
逆に、些細な事でも酷くショックを受ける事もあるが。




そういえば、今日の俺の行動を彼女はどう思っただろう。
あの後の態度。少しは意識してくれただろうか。余る期待はしないつもりだが、ちょっとした態度にも敏感に感じてしまう今の俺は、傍から見れば滑稽な男だろう。
年甲斐もなく初恋に順じている自分を少しだけ恥ずかしく思うが、やはりそれも仕方がないのだ。




不破とのあんなシーンを目の当たりにした直後は、腸が煮えくり返るどころの話ではなかったが、それも彼女が俺の為に用意してくれたバレンタインのプレゼントのおかげで、一応落ち着きを取り戻すことができた。
期待すまいと思っても期待している自分。もしかしたら自分は特別なのではないか、と。
そんな思いも何とか押さえ込むつもりだったが、事ある毎に不破を一杯に思い出している彼女を見れば、それもすぐに覆された。
つい自分を制御出来ずに起こした行動。ギリギリで踏みとどまりはしたが、本当に危なかった。
けれど、それをしてしまえば、俺は不破と同じになる。奴の暴挙と同格になる。それは避けたかった。
しかし結局、未遂とはいえ彼女にとっては十分衝撃を受けるものだっただろうから、程度の差はあれど、俺もそう変わらないのだろう。
最近、ますます緩くなってきた理性のロックをこの辺りでもう一度締めなおさないと、取り返しのつかないことをしそうだ。




そんな事を思いながら、俺はラッピングのくるっとカールがかったリボンを解く。
思えば随分大き目の箱だ。中身の見当がつかないが、それも開けて見れば分かる事だと、解いたリボンを箱の横に纏めて、中身を取り出す。




「…………」




一人しかいない自宅のリビングで感嘆の声を上げるのもどうかとは思うが、ただ単に声が出なかった。
余りに予想外で……予想外過ぎて何も言えなかった。
手に取りゆっくり確認する。




「何処からどう見ても……枕、だよ……な?」




少々、どころじゃなく小さめだが、この形状は間違いなくそうだろう。
しかし、一体何がどうなって枕なのだろうか?
プレゼントにどうこう言うつもりはないが、それでも一体何故?




手でその感触を確かめる。肌触りも良く、弾力もある。
小さくともしっかりとした枕だ。
自分の膝の上から持ち上げて見ようとした時、ひらりと何かが落ちた。




「ん?カード?」




拾い上げて半分に折られているカードを開くと、そこには最上さんからのメッセージがあった。




“遅れて申し訳ありませんが、
 お誕生日おめでとうございます。
 色々悩んだのですが、以前枕がないと眠れないとおっしゃっていらしたので
 携帯に便利な小型枕です。
 粗末なものですが、受け取って下さると嬉しいです。”




彼女らしいしっかりとした字で書かれたそれ。
確かに以前……確かあれは軽井沢での事だったか。俺はそんな事を口にした。咄嗟の言い訳だったのだが、どうやらそれを覚えていたらしい。




「最上さんらしい、な」




思わず零れるのは苦笑。ここに誰も居なくて良かった。これで誰か……社さんでもいたら、それこそ遊ばれる事間違いなしだろう。
その流れでこれに纏わる話をされられ兼ねないし、それは洒落にならないくらい恥ずかしい。
大人しく彼女の言うことを聞いて良かった。
しかし、咄嗟の言い訳のつもりだった事でも彼女は覚えてくれていたのだ。
それについては、やはり嬉しいとしか言い様がない。どんな些細な事でも覚えていてくれて、気遣ってくれたと思えば、俺にとってはどんなプレゼントより嬉しい。




「でも、確か最上さんは『私が恥ずかしい』って言ってたよな?この場合、どちらかというと恥ずかしいのは俺じゃないのか?」




彼女はただ俺の“癖”を思って用意してくれたに過ぎない筈だ。
確かにあの場所で、これを開けて見れば、否が応でもこれに至った経緯を周囲にいた社さんや百瀬さん達に聞かれる事だろう。
流れに寄っては“膝枕”の件まで。純情な彼女なら、その膝枕で一杯一杯になる事は想像に容易い。
俺も恥ずかしいが、それなら彼女も恥ずかしい。
きっとそういう事なのだろう。




どこか釈然としない気持ちはあったが、それ以外に理由が見出せなかった俺はそれで解決させた。
ふうっと一息ついて、その携帯できるという枕を自分の右隣に置いた。
箱を片付けようと手に取ると底に妙な形が浮かんでいたので、探るとそれは何か歪な形状の物だった。




「何だ……?」




細長い形状のそれ。大した重みはないが形は複雑だった。
これもプレゼントなのだろうかと思い、くるりと巻かれていた包装を外し、現れたそれに俺は先程以上の衝撃を受けた。




「な、ん……えっ!?」




余りの物に、言葉が出ないというよりも、もう息をすることさえ忘れた。
それ位に有り得ない。
……有り得ない。




(……というか、有り得ないだろうコレは!!?)




それは俺がよく見るものだった。
彼女はよく俺の前でこんな表情をする。
緊張が有り有りと伝わる口を一文字に引き結んだような固まった顔。
どこぞの軍隊を思わせるような、直立不動で固まるその姿。




「も、最上さ……っ!?」




多分今までで一番間の抜けた顔をしているに違いないだろう自分。
だが仕方がない。俺はもうどうしたらいいのか分からない。
一体どんな罪を犯したら、こんな罰が下るのか。




そして例の如く、それにも一枚のカードがあった。




“身売りをさせてしまったお詫びの
 『最上キョーコフルリアル人形1/16』です。
 すみません。
 時間が足りなくて、とてもマリアちゃんにあげたものと
 同じサイズでは制作できませんでした。”




これはもう何と言ったら良いのだろうか?
……誰か知っていたら教えて欲しい。




「確かにあの時俺は……けど、だからって何で……というか、これをどうしろと?」




俺の手の中にあるのは、最上さんの姿を精密に表現した人形。
マリアちゃんの誕生日の一連の件が頭に流れる。
あの時の俺そっくりの……そっくりというかそのものの人形も有り得ないと思ったが、これも、あれと引けをとらない出来栄え。




(……って、だからそうじゃないだろう、俺!それに俺は、別に君にまで身売りをしろとは言っていないのに!)




そしてメッセージの最後に添えられた一文。




“煮るなり焼くなり敦賀さんのご自由にしてください! 最上キョーコ”




「煮るなり焼くなりって……俺はこれを一体どうしたらいいんだ?……最上さん」




今はいない最上さんに向かって投げる言葉は、勿論彼女本人に伝わる事はないと分かっていたが、俺は人形の最上さんに向かって問う。
手の中にあっさり収まっている最上さんは、緊張した顔のまま俺を見つめていた。



















*





















後日。
その人形をどうしたのかというと、勿論捨てるなんて事はせず、きちんと手元にある。
流石に飾ることも出来ないアレ。
開き直って何処ぞに飾ったとしても、余りに精巧過ぎる故に、彼女自身に見られているようで落ち着かないし、傍から見れば完全に怪しい人間になる事だろう。
でも、彼女がきっと一生懸命……それこそ死ぬほど恥ずかしい思いをした事は、分かり過ぎる位分かるので、ぞんざいにも扱えない。




更に数日後。
俺は事務所で彼女に遭遇した。
いつものように挨拶を済ませ、俺は誕生日のプレゼントのお礼をと口を開くと、彼女は途端に顔を真っ赤に染めた。




「ややや、やっぱり、あんな物じゃダメですよね!!すみません!!」
「あ、いや……そうじゃなくて、あの人形も……」




俺はただお礼を言おうとしただけなのだが、最上さんは更に顔を赤くして激しく動揺してしまった。




「す、すすす、すみません!時間がなかったとはいえ、敦賀さんのものより遙かに劣ったものなど贈りつけてしまって!あ、あれから、どうしようかとずっと悩んでいたんですけど!」
「すごく精密だったよ。本当に器用だよね、最上さんは」
「い、いいいえ!と、とんでもございません!もう本当にどうにでもされて下さい!!!ああぁ!でも丁度良かったです!敦賀さん!コレもどうぞ!!」
「え?あ、うん」




口を挟む間もなく、押し付けるように渡されたそれに手を掛けようとすると、またしても入るストップ。




「そ、それも、ご自宅で!一人で!開けてください!オプションです!デフォよりしっかり作りました!!!それでは失礼します!!!」
「あ、最上さん!」




砂埃が立ったような幻覚を残して、脱兎の如く立ち去るその背をただ呆然と見送った。
隣にいた社さんは何がなんだか分からないといった顔で俺を見ていたが、正直説明をしている余裕はない。
その場には、ピンク色の小袋だけが残された。




社さんがしきりに気にしていたその中身は、俺の予感が見事的中した産物だった。
もうここまで徹底されたら、彼女には賞賛の拍手を浴びせたい。
的外れな言葉と共に。




「……君は……日本で一番の人形師になれるよ」




言いつけ通りマンションで開いた小袋から出てきたのは、彼女の百面相を忠実再現した『着せ替えフェイス』コレクションだった。


























おわっとく。

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【あとがき】


〜 ACT.148 バレンタインXXXX 続き妄想 おまけ 〜 【祈-PRAY AFTER-】 Side.R


もう何も言わないで下さい!
というか、遊びすぎですよね?す、すみません!!!!!



でも!でも!どうしても
『キョーコちゃんが恥ずかしいというプレゼントの中身』
が気になって、気になって!



枕予想されてる方は結構いらっしゃるみたいですね!
私もあの形状を見て、そうかな〜なんて思ったのでそう書きましたが、
一番書きたかったのは、勿論フルリアル人形です!



だって!だって!
あんなアナザーエピソードがあって!(※クリスマス小話)
キョーコちゃんがやりそうなのってコレかなって!
コレならキョーコちゃんが恥ずかしいと思うのも不思議じゃないし!!




…と下らない言い訳を書きましたが、これにて予想話は終わりです。
もうひとつくらいのエピソードを書きたいと思ったのですが、
現時点ではちっとばかし厳しそうです。。。





作成 2009/11/17(火) 04:11:44
更新 2009/11/20(金) 17:30:51
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