もう会いたくないと思っていた貴方に会ってしまいました












一体私が何をしたと言うのでしょう?












私の何がいけなかったのでしょう?



















[教育指導シリーズ] 〜お題 [恋の病に10の長文] より〜
【心臓が 壊れるんじゃないかと 思った】




















「冗談ですよね?」






壊れ物に触れるかの如く、おそるおそる尋ねるのはこの部屋の所有者。






「さあ…どうかな?」






相手を部屋の隅に追い込み、両手を壁に当てて逃げ道を完全に塞ぐ青年。
その眼差しは妖しい色で染まっている。






「つ、つ、敦賀さん。わ、わ、私っ、何かしましたかっ!?」
「したよ。」






きっぱり且つはっきりと告げられてしまい、二の句が告げないキョーコ。
しかも対する蓮は少しずつだがキョーコとの距離を縮めるように迫ってくる。














先程、たまたま偶然に出会った二人。
キョーコはいつも通りに事務所の先輩である蓮にに対して挨拶をした。






ここまではよかった。






挨拶をしたにも関わらず、蓮は目が合うなりにっこりと微笑んだ。
そう。あの嘘つき毒吐き紳士スマイルで。






身の危険を感じたキョーコは“触らぬ神に祟りなし”とばかりに、その場から逃げ出した。
逃げ出したと思われないように気をつけながら、このラブミー部員専用部室に逃げ込んだ。







逃げ込んだつもりだった。






だが、閉めようとしたドアが大きな音を立てて止まる。
何かが挟まったような感覚がドアノブから伝わった。






「えっ!?」







嫌な予感がした。そしてその予感があたることをキョーコは理解していた。
ゆっくりと視線をドアに向ける。ドアは15センチほど開いたままだ。







更に視線を落とす。もっともっと低い位置に。

わずかな隙間から覗いていたのは黒い革靴だった。左足の靴だった。
見覚えのある靴だった。






(ひぃぃぃいいいいいいいーーーーーっ!!!!)






あまりの恐怖に身を固まらせるキョーコ。
一拍おいて、ドアの上部から今度は大きな手が伸びてきた。






「全く酷いことをするな。君は。」






予想と違わない声色。
今ほど、自分の予想が外れて欲しいと思ったことはないとキョーコは心の中で叫んだ。






「つ、つつっ敦賀さんこそ、何でそんな悪徳商法まがいな真似するんですかぁっ!?」
「失礼だな。いつかの君の真似だよ?」






うぐっと黙りこむしかないキョーコ。
確かに自分は過去に、蓮の家で“悪徳商法まがいな真似”をした。
それを持ち出されれば何も言えない。






(駄目だわ。今のこのヒトに何を言おうが通用しない!むしろ綺麗な返し刃が、私の急所を目掛けて飛んでくるだけだわっ!)






逃げ場はないかと辺りを見回す…が、逃げ場などあるワケがない。
この部屋にはドアはひとつ。窓はあるが、窓から逃走を図ろうにも絶対に捕獲されることは確かめるまでもない。






先程より一層増した紳士スマイルを浮かべながら、蓮は部屋のドアを閉めた。
ご丁寧に鍵までかけて。






「な、な、な…何で鍵まで閉めるんですかぁっーーーーーー!!?」






キョーコの悲痛とも言える悲鳴が部屋に響くが、相手が悪かった。動揺するどころか、さらりとした返し刀を向けた。






「もちろん。君が逃げないようにするためだよ?」






背景にキラキラと輝く効果が見える。例え目に見えなくとも、キョーコの目にはそれが見えた。
ついでに、自分のこの後起こるだろうすぐ先の未来まで見えてしまった。






既に瀕死状態のキョーコ。
対する蓮は、相変わらずの紳士スマイル。






紳士が動いた。
にこやかに笑みを浮かべながら、優雅な足取りで。
反射的に後ずさりをするキョーコ。






「なっ、な、な、ななな…!!?」






そして背にあたる壁の感触。
緩やかに伸びる大きな手が、キョーコの顔の両横の壁についた。

後ろは壁。左右は蓮の両手。正面には紳士スマイル。







はい。逃げ場は無くなりました。






(いやぁぁあああああああーーーー!!に、逃げ場がっ、逃げ場がなぁああいぃぃぃいいっ!!)






それが現在の状況。
部屋に鍵が掛かっている以上、例え誰かが気づいたとしても救助は望めない。






最低最悪の状況とはまさにこの事。
キョーコは行き場のない焦りと動揺と緊張により、既に昇天しかかっていた。
しかし、相手は意識を失うことさえ許してくれないらしい。






「最上さん。まだ逃げる気はあるかい?」
「逃げたくても逃げられないじゃないですかっ!?」






「それじゃ、観念すると受け取るけど…いいね?」
「よくはないですけど、どうせ聞いてくれないのでしょう?」

「よくお分かりで。」






さて今回はどんな要求がくるのだろうか?
これまで、キョーコが何かをする度に、その見返りと称して様々な要求をされてきた。






「ちょっと付き合って」と言われて食事に連れて行かれたり。
「暇なんだ」と言って話し相手にさせられたり。
「忙しいんだよね」と言って代マネをさせられたり。







二の句には「これもラブミー部員の仕事だよ?」と言われ、公私混同されているのだが…キョーコに拒否権はない。
むしろ拒否できない状況に追い込まれる。






「この間…俺は言ったよね?」
「な、な、なんの事ですかっ!?」






何のことかは分かっている。分かっているがあえてシラを切ってみる。






「知らないフリをするのは関心しないな。もう一度、教育が必要なのかな?」






蓮はあの時言ったのだ。






“次はこれじゃ済まないよ”…と。






(うあぁぁぁ…ど、ど、ど、ど、どうしようぅうう!!???)






誠心誠意を込めて謝罪をするしかないだろうが、とにかく原因が思い当たらない。






(今回は留守電云々じゃないはず…ここ数日は留守電はしていないし…)






頭の記憶装置をフル回転させる。記憶という名の履歴を片っ端から辿る。
だが、全く心当たりがない。

だが、このままでは身の危険を回避することができない。






(こ、こうなったら奥の手よ!)






キョーコは唇を噛み締め、ぐっと力を込めた。
俗にいう腹を括ったという表情だ。






「す、すみませんっ!!!心当たりがありません!!!ごめんなさい!!許してください!!!」






早い話が平謝り。
これのどこが奥の手なのかは、キョーコにしか分からない。






「いいよ。許してあげる。」






あっさりと紡がれるお許しの言葉。

さすがのキョーコもまさか許して貰えるとは思ってなかったので、拍子抜けしたような表情を浮かべた。






「謝ってくれたんだから許すよ。」






この蓮の言葉に、キョーコが心底ホッとしたのは言うまでもない。
だが、ホッとしたことをこの数分後に激しく後悔することになる。






「君が何をしたのか全くわかってなかったとしてもね?」
「!?」






「だから、これで許してあげるよ。」






蓮の顔から嘘つき毒吐き紳士スマイルが消えた。







そして…






全く別人に変貌する。






(いっ…いやぁぁあああああああああーーーーーーっ!?)






瞬く間に、妖しげな雰囲気が部屋中をを包み込む。
顔に妖しげな笑みを浮かべ、瞳はサディスティックな色に染まる。






(で、で、で、出たぁぁああああああああーーーーーーーっ!!!)






最上キョーコが最も苦手とする敦賀蓮。
夜の帝王バージョン






「前に言ったよね?覚悟できてるかな?」
「か、か、か、覚悟なんて…っ!」






出来ていない!と叫ぼうとしたが、キョーコは自分に降り注がれている視線に呑まれてしまった。






声が出ない。







身動きひとつさえ取れない…






胸の奥から聞こえる鼓動の音。







目の前のヒトにまで聞こえているのではないかと思えるくらい大きい音。

一番苦手だと思っているヒトの漆黒の瞳に、自分の顔が映っていることに気がついたキョーコは、胸の奥から溢れる感情に戸惑っていた。







ある筈のない感情が揺さぶられることに怯えながらも
真っ直ぐな視線から逃れることはできなくて






その瞳に魅せられて
その声に震えて







その指先に触れられて

細く長い指が頬に添えられた。







妖艶で逃げることを許さないその表情とは、まるで正反対の優しい指。

緩やかに頬を撫で、慈しむようにその輪郭を辿る。






「逃げないの?」






常よりも低いテノールが静かに響く。
何ともいえない色を帯びた声が、音になって届く。






動けない…動けるワケがない…







こんなに鋭い瞳で見られてるのに、“このヒト”には会いたくないと思っていたのに…






なぜこんなにも魅せられているの?






「…分からない…です。」






返事とは言えない返事。
キョーコは自分でも何を言っているのか、分からなかった。






「……」






そして蓮もまた何も言わなかった。
何も言わないまま、頬に添えていた指をほのかに色づいている唇に滑らせた。






吐息が分かるくらいの距離にある相手の唇。
少しずつ距離を詰めてくるそればかりに意識が奪われる。






(…………あ……私…………なんで逃げないんだろう………?)






ふと浮かんだ疑問に、答えは出なかった。
“逃げない”ことが答えだとは知らずに…






限界まで迫ったそれを視界の端に捉え、無意識で瞳を閉じた。







それから一拍。






温かくて柔らかい感触が触れた。






それは、予期していた場所とは違うトコロ






唇から少しズレた






左唇のすぐ横だった






驚いて瞳を一気に開くと、そこには柔らかく微笑む蓮の顔。






「……あ…………」






一歩離れた蓮に一言だけ漏れる声。






それは、予想外のことに驚いた声だったのか。
それとも、離れてしまった温もりを惜しむ声だったのか。






「……………驚いた?」

「……え…?」






先程まで纏っていた妖艶な雰囲気はもう微塵も残っていなかった。






「今回はこれで十分……。」
「十分って……?」






そして瞬間的にこれまでの所作がキョーコの頭の中を巡る。






「あ……」






ぐぃんと血が一気に顔に上る。






(あ、あ…………わ、私っ!?あれ!?)






急に気恥ずかしい気持ちが溢れ出す。顔が熱くて熱くて仕方がないキョーコは、己の頬を両手で包んだ。
“穴があったら入りたい”とはまさにこの事だ。






「最上さん。」

「ふえ?」






突然名を呼ばれて動揺のあまり、キョーコは変な声をあげた。
そんな様子に苦笑しながら、蓮は一歩近寄ると少し腰を折って、キョーコの目線に合わせた。






ふわっと空気が揺れ、一体何事かと考える間もなく、再び温かいものが触れた。
今度は先程とは反対の位置に。






「へ?…え……………え?……………えぇぇえええっ!?」






更に頬を高潮させるその様子を見て、蓮は再び笑顔を浮かべた。






「可愛い顔。」






恥ずかしげもなく、さらっと言える蓮の感覚は、やはり日本人のソレとは違う。
彼にとっては本心からの言葉なのだから、更に始末が悪い。






「な、な、な、何言ってるんですかぁああ!?貴方ってヒトはっぁぁあ!?」
「ほんとのことだよ?」






「それじゃ、俺はこれから仕事だから先に行くね?」
「つ、敦賀さんっ!!」






顔を真っ赤にしているキョーコをもう少し見ていたいと思ったが、生憎この後は仕事だ。
それを残念に思いながら、鍵を開けドアを開けた。






「また明日ね、最上さん。」
「え、ちょっとっ!!」






キョーコの制止の声には答えず、そのまま部屋を出て行く蓮。
その背中に手を伸ばしても、もう届かなかった。






未だに残っている蓮の温もりに、ひとり顔を赤くするキョーコ。






「こ、これならっ!まだ唇の方がマシだったんじゃっ!?」






まぁ、それは有り得ないだろうが、先程までの行為を思い出しては、発狂せんばかりに頬を紅潮させて、ジタバタと落ち着かない様子は確かに面白い。













(し、心臓が…壊れるんじゃないかと…思った…)













やっぱり、あの「夜の帝王」には、もうお目にかかりたくない。













ほんとに心臓に悪い。













ほんっとに心臓に悪い。













気恥ずかしさから、懸命にそう言い聞かせるキョーコだったが、蓮が触れた箇所は温かい温もりに包まれていた。






「で、でも。結局、敦賀さんが何で怒ってるのか分からないしっ!」













何も分からなかったが、キョーコには確かに残されたものがある













それは、













とてもとても安心する温もり…








































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【あとがき】


…えっと、中途半端ですみません(><)
お題に挑戦してみました!

これは短編小説の【教育指導】の続編?
…のようなモノです。

かえってこういうギリギリの方が恥ずかしいかと思って…
そうでもないのかな?うーん…

次書くなら、内容は決まってますね(笑)
読みたい人とかいるのかな?

もしいたら、拍手あたりでリクエストください!



作成 2007/11/28
更新 2007/12/13

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