〜似非紳士と天然少女シリーズ〜

【無自覚すぎるふたり】





















昨日、見事に捕獲された少女……キョーコの小話をまたひとつしようと思う。










これもまた何の変哲もないコトだった。
そう解釈するのは周りの人間であって、キョーコ自身ではない。
とりあえず、ソコだけは了承していただきたい。










「………というワケなのよ、モー子さん」
「ふーん。相変わらずね、アンタ」










ラブミー部専用の部室には、買ってきたペットボトルのウーロン茶とささやかな茶請けを用意して、先日の話を懇々と話すキョーコと、やれやれといった風体でテーブルに肘をつきながら話を聞くのはキョーコの親友である奏江の姿があった。










「ホントに仲良いわよね」
「仲がいいって?誰と誰が?」










相も変わらず鈍い親友に呆れたように溜息を尽き、奏江はキョーコが買ってきてくれたウーロン茶に口をつける。










「アンタと敦賀さんに決まっているじゃない」
「……モー子さん。どこをどう聞いたら仲が良いなんて思えるの?」










さも不思議そうに首を傾げるキョーコに、いくら慣れているとはいえ、どうにもおかしい親友の思考に頭を痛くする奏江は、もう一度今度は先程よりも大きな溜息をつき小さな声で囁いた。










「………仲が良くなければ、普通自分の家の鍵なんて渡さないでしょうに」
「え?何か言った?」










この鈍感な親友には、何を言っても理解が得られないことは重々承知している奏江は「何でもないわよ」と一蹴する。










「嫌なら、嫌って言えばいいじゃない。敦賀さんならそう言えば分かってくれるんじゃないの?」
「別に嫌、とかじゃないんだけど………でもあのヒト意地悪なんだもん」










(あの“温厚”で知られる敦賀さんが“意地悪”ねぇ……)










在らぬ方を見ながら奏江は、先日の親友の誕生日の件を思い出す。
日付が25日に変わるや否や、親友の自分ですら知らなかった誕生日を何故か知っていて、その上、“クィーン・ローザ”なんて大層なものまで用意しプレゼントしたのは、自分にとっても先輩であるあの青年だ。










(先輩って言っても私は彼とは一切関わりないけどね。彼絡みのラブミー部への依頼は全部このコに行ってるみたいだし……)










それが羨ましいとかそういう感情は皆無の奏江だが、いくら先輩であっても相手はあの超絶な人気とナンバーワンといわれる実力を持つトップ俳優だ。
その先輩が、端から見ていても仲が良いと括れてしまうほど、目の前の少女と接点がある。
それは、もう異常と思えるほどに。










この業界に入り、奏江は少なからず“敦賀蓮”という俳優についての情報は持っていた。
温厚であり、共演者でもスタッフでも分け隔てなく優しく、仕事にも真面目。
見た目の華やかさからは想像もできないが、浮いた噂はひとつとしてない。

ただ、一部で実しやかに流れているのが










“誰に対しても優しいが、誰とも深くは関わらない”










これは人との関わり方の問題なので、奏江はこれについてはどうこう言うつもりはない。
むしろ自分に近い感覚の持ち主だと思う程度だ。










ほんの一部では……と言ってもこのLMEでくらいだが、この親友に対する態度が違うらしいと聞いたのは何時のことだったか。
誕生日の件やそれまでの話から、随分懇意にしているということは知っていた奏江は、かつて自分が思ったことを思い出した。










多分、彼はこの親友が好きなのだろう、と。










あのカラオケボックスでの一件では、そのコトについて触れると親友は大げさと思えるくらいに否定をしていた。
だが、奏江が見る限りはそうとしか思えない。










(“意地悪”にしたって、つまり早い話が“好きなコはいじめたくなる”って奴でしょ)










実年齢より遥かに落ち着いて見えるあの青年が、そんな小学生紛いな理由でちょっかいを出しているという事は、さすがに信じられないと奏江は思うのだが、どうしてもその考えが拭えないようだった。










「ね、アンタ前に敦賀さんに嫌われているとか何とか言ってたけど、それは今でもそう思ってるの?」
「え?……あー……今は、そんなに嫌われているとは思わないんだけど……たまに私にも神々スマイルを見せてくれるし」
「神々スマイル?何よそれ?」










聞きなれない言葉に即座に反応した奏江は、キョーコの顔色を伺うようにその問いを投げる。










「えっとね、DARKMOONあるじゃない?」
「アンタと敦賀さんが共演しているあのドラマね」
「そうそう!それでその嘉月が美月にだけ見せる笑顔っていうのがあるんだけど……」
「あぁ……アレね」










話題沸騰しているというよりも、親友とナンバーワンと言われている俳優が出演しているという理由で、奏江はDARKMOONを見ていた。
もちろん嘉月と美月のことも承知している。










(敦賀さんにとって本格的な恋愛要素の強いドラマって話らしいけど、美月に向けるあの笑顔は確かにかなり凄まじいわね)










画面の向こうとはいえ、あまりにも甘やかなその笑顔に、そういう方面に興味のない自分でさえもかなりの衝撃を受けたことは、奏江の記憶にも新しかった。










「美月を愛しいと思うその笑顔が、またすごいの!さすが敦賀さんよね!」










一方のキョーコは、話が逸れ出してしまっているのか、敦賀蓮の演技について瞳を煌かせながらとくとくと語り出した。










(また自分の事のように嬉しそうにして………このコ、最早“敦賀教の信者”と言ってもおかしくはないわ)










このままでは確実に脱線しそうになる話の流れを、奏江は強引に戻すべく口を挟んだ。










「つまりはその笑顔をアンタにも見せてくれるってこと?」
「へ?……あぁ、うん、そうなのよ。だから私、自分が思っている程嫌われていないのかな〜〜〜って思って」










まぁ分からないけどね、とどこか頼りない言葉を付け加えながらも、キョーコは可愛らしい笑顔を浮かべていた。










「確かに嫌っている相手に見せるような笑顔じゃないわね、アレは」










(……むしろ)










とそこまで奏江が考えたところで、それを断ち切るように現れたのは一つの影だった。










「楽しそうだね」










にっこり笑顔でさり気なく介入してきたのは、言わずもがな会話の種である人気俳優だ。










「え?つ、敦賀さん!」
「こんにちは、最上さん。それと琴南さん、だよね?」
「あ、はい。どうもこんにちは」










にっこりと紳士スマイルで微笑まれた奏江は、姿勢を正しきっちり頭を下げて挨拶をする。










(吃驚した……背後から声をかけられるまで全く気がつかなかったわ……)










奏江は、思わぬ登場に動揺した胸を抑えつつ、ちらっと自分の親友と人気俳優が話している様子を伺う。










(………これまた楽しそうにしてるわね)










「楽しそうな声が聞こえてね。ちょっと立ち寄ってみたんだけど、迷惑だった?」
「いえ、そんなことないです。敦賀さんこそ珍しいですね?事務所にいるなんて」
「社さんの用事で来たんだ。まあ、すぐ移動になっちゃうけどね」










すでに自分の存在など忘れているだろうと思いつつ、奏江は半分にまで減ったウーロン茶のペットボトルを弄ぶ。
蓮は「すぐに移動」と言っていたので、どうやらそれまで待つ体勢のようだ。
奏江としては別に蓮に気を利かせたつもりはなく、同じくキョーコにも気遣ったわけではない。
ただ、あまりにも楽しそうに会話をしている親友の邪魔をしたくなかっただけだった。










(ホントに楽しそうね……まぁ、いいんだけど)










どこか胸の辺りがモヤモヤする感覚を覚えて、奏江はひとつ首を傾げる。
もしや、これも一種の嫉妬というやつなのだろうかと思い、奏江は苦い笑みを浮かべた。










「敦賀さん。今日はちゃんとお食事されましたか?」
「うん。昨日君がきっちり朝と昼食用のお弁当まで用意してくれたからね」










感謝して残さず頂きました、と笑顔で応える蓮に、キョーコは心底安心したように笑った。










(食事の用意ねぇ〜……。これじゃまるで彼女や奥さんのようじゃない)










キョーコにそんな意識はないのだろう。そしておそらく蓮も。
奏江は無自覚な二人に呆れの溜息を吐きつつも、仲睦まじいその様子をじっと見守った。










「夕飯もしっかり食べてくださいね?」
「あー……うん。わかった」










曖昧に言葉を濁す蓮をキョーコはじとっとした目で見つめる。










「絶対、食べてくださいね?約束ですよ」
「わかった。ちゃんと食べるから、そう睨まないで?」
「睨んでなんかいませんよ」
「睨んでるだろう?完全に“未緒”だよ。その目は」










確かにキョーコの背後からはおどろおどろしい黒い靄のようなものが渦を巻いており、それは現在蚊帳の外状態の奏江にまで影響が及んでいるらしく、麗しいその美貌を僅かに歪ませていた。










「もう、どうしてそんな意地悪言うんですか?睨んでないって言ってるのに!」
「意地悪なんか言ってないだろう?ほら笑って」
「おかしくもないのに笑えるわけないじゃないですか!」










すると蓮はキョーコの口元辺りに両手の指を当てて、くいっと口角を吊り上げるように引っ張る。










「つ、るがさん、なにするんですかぁ〜〜!?」
「ほら、スマイルスマイル」










ジタバタと暴れだすキョーコに構わず、蓮は楽しそうに何度も口元を引っ張る。
キョーコはイヤイヤをしながら抵抗を試みているようだが、がっしりと捕らえられているせいか、振り払うまでは至れないようだった。










「さあ、笑ってごらん?君は笑った方が可愛いから」
「なっ……ま、またそんな恥ずかしいことをっ……!」










ぐうんっと顔を赤らめて抗議の声をあげるキョーコだったが、蓮は全く気にしていないのだろう。
その端正な顔には麗しい笑顔が浮かんでいた。一般女性ならそれだけで昇天してしまいそうな程の笑顔で、だ。










「恥ずかしくも何ともないけどね、俺は。本当のことだし」
「貴方が恥ずかしくなくても、私は恥ずかしいんです!」
「どうして恥ずかしいの?」
「ど、どうしてって……………、そんなのどうでもいいじゃないですか〜〜〜〜!!!」










(誰がどう見ても、これはバカップルの掛け合い、よね……)










仲が良いどころの話ではない、と奏江は納得したのか、弄んでいたペットボトルの口を開けて、一口流し込んだ。










「まあ、本音を言えば、笑っている顔だけじゃないけどね」
「はい?何がです?」
「笑っていなくても、君は可愛いよって話」
「んな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」










もういい加減にしてください、と真っ赤になったキョーコが力の限り叫んだので、奏江は両耳を咄嗟に防いでそれを流す。










(……本気で私の存在忘れてるわね、このコ………)










はぁ、とかなり大きな溜息を吐く奏江だったが、完全に自分達の世界に入り込んでいる二人の耳には届かなかったようだ。
それからも同じようなやり取りが繰り返された。
キョーコがその度に真っ赤になりながら叫んで、それを蓮は楽しそうに見つめ……そう、これの繰り返しだ。










「あ、そろそろ時間だ。最上さん、俺はもう行くよ」
「もう!貴方ってヒトはっ!」










蓮はキョーコから離れ、そして名残惜しそうにゆっくりとドアに向かう。
そんな蓮に色々と物申したいのだろうキョーコはむぅっとふくれっ面を見せていたが、何か思い出したように表情を一変させた。










「あ!敦賀さん!ちゃんとご飯食べるんですよ〜〜〜〜!」
「はいはい。ちゃんと食べるよ」
「それからお仕事頑張ってください」
「うん、ありがとう。それじゃ、またね」










蓮は部屋のドアノブに手を賭け、半身を向けるとにっこりとキョーコに向かって微笑んだ。










「行ってきます」
「はい。行ってらっしゃいませ」










バタンという音と共にキョーコはふぅっと一息をつき、まだかなり残っているウーロン茶に口をつける。
そんな親友の様子を淡々とした表情で見つめていた奏江は、再び大きな溜息を吐いた。










「何?どうしたのモー子さん。そんなに大きな溜息なんてついて」
「…………溜息もつきたくなるわよ」










奏江はやれやれといった風情で首を振り、親友の顔をじっと見つめて、また大きく息を吐く。










「ホント、仲がいいわよね」
「ちょっとモー子さん!どこをどう見たら仲が良いなんて思えるの!?明らかに私遊ばれてたじゃない!!」
「…………明らかに仲が良いとしか思えないわよ」










奏江はしみじみとそう答えたのだが、キョーコはもちろんこの発言に納得するわけもなく、どうして何故と何度も首を傾げた。










(面倒だから、さっさとくっつけばいいのに…………)










あまりに無自覚過ぎる親友の反応に、もう何度目か分からないが、奏江は今日一番の溜息を吐いて、心底そう思ったのだった。































To Be Contined...?





















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【あとがき】




【似非紳士と天然少女】シリーズ


二本目ですw微妙に続きというか……まぁ、後日談ですv


ほぼ似非紳士的なとこはないんですが、それも愛嬌ということでご勘弁ください!
次更新を予定している話は、ばっちり強気で性格悪い(笑)ですので!





作成 2008/04/30
更新 2008/05/10 23:56



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