暖かな日差しが差し込み、ここが一瞬どこなのか分からなくなる錯覚に陥る。












そんなある日の午後だった。



















〜お題 [恋の病に10の長文] より〜
【真っ赤な顔を君に見られたくなくて】




















「今日は暖かいですねー」









俺の隣にちょこんと座りながら、君は読んでいた台本から顔をあげる。









「そうだね。いいお天気のおかげでロケもはかどっているしね。」
「でも、こうも待ち時間が長いと眠くなりません?」









そう言いながら、女優にはあるまじき大きな欠伸をする君。
芸能人としてはもっと人目には気をつけて欲しいけど、君はあまり自覚がないからね。
そんな自然そのままの姿は、君らしくていいとは思うけど。









「んーでも気持ちいいのは確かだよ。日差しが心地いい。」
「この季節の太陽は優しくて、私は好きです。」









春のような笑顔を浮かべる彼女に、俺は気持ちが温かくなるような感覚を覚えた。









季節は初冬。
肌寒い時分だが、今日は本当に暖かい。









これがオフだったらどんなに良かったことかと、半ば本気に思っていた俺の隣で、
日に手を翳している少女は屈託のない笑みを浮かべていた。









「ご機嫌だね?」
「天気がいいと気分も良くなりますから。」


「そういうもの?」
「そういうものですよ?」









そうして視線を合わせると、どちらからともなく自然と笑みが零れた。

少し肌に冷たい冬の風にも全く寒さを感じない日の暖かさ。
それが自分達を包み込んでいる感覚が本当に心地よい。










現在もロケは続行中。
出番までは、まだたっぷり時間があった。
ロケ隊の近くで、ただぼうっとしていた俺の袖を引いたのが彼女だった。









『敦賀さん。出番までまだ時間ありますよね?すごく綺麗なところ見つけたんです。一緒に行きませんか?』









花が咲いたような可愛らしい笑顔で誘われれば、否とは言えない。
願ってもない申し出を受けて、こうしてスタッフから隠れるようにこの場所までやってきた。









彼女に連れられたのは、ロケ現場から数分も離れていない場所。
とても穏やかで、温かくて、澄んだ空気に包まれた空間。









柔らかい緑の絨毯が一面に広がり、大木が数本聳えていた。
彼女は俺の手をくいっと引きながら、一番大きな木の下まで誘導した。









『ほら、すごく綺麗だと思いません?』









針葉樹からはるか先までを見渡せば、
そこが本当に冬の世界なのかと思えるくらいの眩しい緑で覆われていた。
太陽の光が反射して艶やかにゆれる木々や、風に揺られる草。









彼女に誘われるままに、肩を並べて木の根元に座り込んだ。
木の根元まで生い茂っていた芝の柔らかさが優しい。









『春なら…きっともっと綺麗でしょうね。お花もいっぱい咲いて、蝶が舞って…』










ふわっとした甘い香りがした。
それは彼女が使っているのであろうシャンプーの香り。
俺の右肩に添うように頭を寄せた。









「最上さん…?」









突然の香りに驚きながらも俺はそっと彼女の顔を覗きこんだ。
少し茶がかかった黒瞳が長い睫で柔らかく閉じられていた。

桜色の唇からわずかに聞こえる呼吸が、彼女が眠っているということを如実に語っていた。









「お仕事中ですよ?お嬢さん?」









桃色の頬を軽く突いてみるが、起きる気配がないどころか全く反応しない。
弾力のある肌の滑らかさが心地よくて、もう一度突いてみる。










だが、やはり瞼ひとつも動かさない。
それどころか、穏やかな寝顔を見せるばかりだった。









「まだ時間があるし…まぁいいか…」









彼女の白い手に握られたままの台本をそっと抜き取って、脇に置いておく。
このままの体勢では首が疲れてしまうと思い、そっと身体を横たえ、自分の膝の上に頭をゆっくり乗せた。









「いつかの逆だね。」









以前、彼女の膝枕で眠ったことがあった。
温かくて心地よい彼女の温もりを思い出した。









「少しは温かいといいけど…」









上着を脱いで、彼女が風邪を引かないように…冬の風から護るためにそっと掛ける。
彼女は少し身じろぎをしたが、また規則正しい寝息を立てはじめたのでほっと胸を撫で下ろした。

僅かな風でも揺れる栗毛色の髪に触れると、あまりの柔らかさに驚いた。










幼い頃は、自分とは違う艶やかな黒髪だった彼女。
頭を何度か撫でた記憶と、今触れている髪の感触が同じものであることに気がついた。









見た目は変わっていても、変わらないモノ。









それは彼女の性格や笑顔と同じ…










再会した当初は、記憶の少女とはあまりに違い過ぎて、見落としていた彼女生来の本質と同一のもの。









それが、こんなところにもちゃんと残っていた。










それがとても嬉しかった。









少女との出逢いが夢だったんじゃないのかと思う時もあった。
時折思い出す記憶の少女は、本当はどこにもいないのではないかと何度も思った。









導かれるような再会を果たして…
こうして直に触れて、温もりを感じて、あの頃と変わらない笑顔があって…










夢でも幻でもない現実がここにある。

いつか彼女に話す時はくるのだろうか?










大切な思い出話を…









今はまだ分からない。










今は綺麗な思い出として、自分の心にだけしまっておきたいと思う。









あまりに変わりすぎた自分










彼女の思い出の中の自分とは全く違うから









そう思う心があるから









しばらくはこのまま…



















俺は変わってしまったけど…



















「君はホントに変わらないね…キョーコちゃん…」





























「蓮ーーーー?どこだーーーー?」









遠くから社さんの声が聞こえた。
パタパタと軽い足音がだんだんと近づいてくる。









ここは木陰だから見つかりにくいだろうな、なんて呑気に思っていたが、流石は長年連れ添ったマネージャー。
俺の影を見つけたのか「やっと見つけたぞ」なんて明るい声をかけながら駆け寄ってくる。









「こんなところにいたのか!探したぞ?…あと三十分くらいでお前の出………あ…れ…?」









俺の顔から視線を外し、ゆっくりと目を落とす社さん。
そして、膝の上で眠っている最上さんに気がつくと、真っ赤に頬を染めてそろりと後方へ下がる。









「なんです?その反応?」









最初から隠すつもりもなかったからか、いつもなら言い訳のひとつも出る口からは、自分でも驚くほどあっけらかんとした声が出た。









「い、いや…キョ…キョーコちゃんも姿が見えなかったから、きっと一緒にいるんだろうと思ってはいたんだけど…まさか…」









ええ、まさかこんな体勢でいるなんて想像もしてなかったですよね?
それは俺も同じですから。









「ま、まぁ…あと三十分はあるから…五分くらい前には戻ってこいよ。じゃ…じゃあ………邪魔したなっ!」









見てはいけないものを見たとばかりに顔を赤らめながら、言いたいことだけ言うと社さんは踵を返して走り去っていった。









「あんなに赤くなられると…こっちまでつられるんだけど…」









社さんが一度も振り向かなかくてよかった。
多分…いや、きっと俺の顔も社さんに負けず劣らずに赤いだろう。









「頼むから…今はまだ起きないでくれよ…」









自分の熱を誤魔化すように、彼女の髪を撫で続けた。
そう、いつか彼女が俺にそうしたように。
さらさらと流れる感触を感じながら。










あと三十分










それまでに何とかするから、どうか起きないで。










こんな顔を君に見られたくないから。





























          *






























「お目覚めですか?お嬢さん?」










まだ眠り足りないのか、瞼をこすりながら呆然とする君。










「敦賀さん…?」










「今度は…」
「え…?」










「…今度は春に、一緒に此処に来ようか?」




















君が綺麗だろうと言った世界を一緒に見てみたいから




















「約束だよ?」




















そして君は




















大輪の花のような笑顔を咲かせた








































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【あとがき】


ひさしぶりにお題に挑戦!
ほのぼのまったり……

前回よりもゆるーい展開ですvv

なんとなく書きたくなったので書きました!

またこういうのも書きたいですが、
リクエストも早く書かないと!




作成 2007/12/04
更新 2007/01/10

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