何気ない言葉や何気ない表情に一喜一憂して














四歳年下の君に














無意識の君に














踊らされている俺は














君の瞳にどう映っている?


























〜お題 [恋の病に10の長文] より〜
【自覚した途端、自分の中で何かが変わった】




















「敦賀さーん!」









聞きなれた明るい声に呼ばれた。
声の主は振り向かなくても分かる。
心臓が跳ねるのが分かる。









(名前を呼ばれたくらいで…)









こんなに容易に動揺する自分が恥ずかしいというか、何というか。

一呼吸置いてゆっくりと振り返れば、そこには満面の笑顔の彼女の姿。









「やあ、最上さん」
「こんにちは。敦賀さん」









今日はいつになく、上機嫌のようだ。
笑顔を花のように咲かせるその様が、本当に愛らしく見ているこちらまで嬉しくなる。









「どうした?何かいいことでもあった??」
「えっ?何で分かるですか!?」









もちろん分かりますよ。
他の誰でもない君なのだから…









だけど、もちろんそんな事は言わない。
彼女に気づかれるワケにはいかないのだから…









「えへへー。実は新しい仕事をもらえたんです!」
「へぇ?どんな仕事?」









恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、もじもじとしている彼女。
言い澱んでいたのだが、俺の顔を上目遣いでおそるおそる見上げる。









その顔は犯罪だろう?









無意識なのだろうその行動に、またひとつ心が乱れる。









「…モデルの仕事なんです」
「モデル?何のモデルをやるの?」

「cranberryというティーン向け雑誌のファッションブランドのモデル…みたいです」
「…みたい…って、決まったんだろう?その仕事」









これだけ嬉しそうにしているにも関わらず、どこか他人事のような彼女。
彼女らしいと言えば、実に彼女らしいのだが。









「は、はい!もちろん!でも…何か夢みたいで…」









いつでもどんなときでも自分を過大評価しない彼女。
謙虚なのだけど、芯はしっかりしていて。
いつも明るくて笑顔を絶やさない。

そう。はじめに出会った頃…いや、再会した頃とは大違いだ。









最も今でも、この世の終焉を垣間見たように絶望している表情を浮かべることはあるが…

彼女の本来の性質は、こちらである。









昔から…ね。









「ということは、衣装が君好みのデザインだってことかな?」
「は……はい…」









頬を桜色に染め上げながら、コクンと首を縦に振る。
本当に可愛らしい仕草をするコだ。









「どんな衣装?」
「え?…えっと…ですね…」









他に人目があるワケでもないのに、辺りをキョロキョロと小動物のように伺い、落ち着かない口調で身振り手振りをしている。
そんな彼女に思わず顔を緩みそうになる。









「ほら、落ち着いてごらん」
「は、はい!」









大きく深呼吸を何度かして、ようやく落ち着いたのか。
少しずつゆっくりと言葉にしはじめる。









「何着か着ることになっているんですが…特にあの白いワンピースが気に入ってて」
「白?」









それは、また純粋無垢な彼女にはぴったりの色だ。









「はい!真っ白で、裾のあたりが…こうアレです!」
「フリル…かな?」









「はい!!これがもう可愛くって!!!パッと見はシンプルなのに、こうフワっとしたスカートとフリルがまるで蝶々みたい…というか、ちょっと動くだけでユラリと揺れる感じが絶妙で!!」









メルヘン癖を全開にして、大きな瞳を輝かせながら歓喜してみたり、うっとりと目を細めながら夢見心地のような呟きを漏らしてみたりと、とにかく彼女は忙しい。
昔から本当に変わらない。









「……す、すいません。私…勝手に舞い上がっちゃって……」









真っ赤な顔をして申し訳なさそうな顔をしながら、おどおどしながら俺の顔を伺うその姿は、まるで小動物のようだ。
色々な顔を見せてくれるね、本当に。









「あ、呆れました……?」
「そんなことないよ。本当に嬉しそうだなって思っただけ」
「ほんとに…嬉しいですから…」









「白か……」
「え?」









ふと漏らした言葉に反応して、彼女は驚いた顔で俺を見つめた。









「白がどうかしましたか?」
「ああ。君のイメージにピッタリだなって思って…」









彼女が着るという白のワンピース。









純粋無垢で汚れを知らない君をイメージしたかのような色。
君は既に自分は穢れていると思っているだろうから、あえて何も言わない。









確かに今の君は、誰かを恨んでいるのかもしれない。
誰かを憎んでいるのかもしれない。









でも、君は言った。
新しい自分を作りたいのだと。










それは、とても素敵なことであり、誰でもできることじゃない。

そう言った時の君の笑顔は、太陽のように眩しく、清流のように澄んでいた。









俺の中の君のイメージは白。
一点の汚れも曇りもないまっさらな白。









白はどんな色にも染まる。
それはまるで、演技をしている時の君だ。










君はどんな役にもなれる才能を持っている。同じ役者としては羨ましいくらいにね。
どんな色にもなれる。









だけど素の君は、きっとどんな色にも染まらないのだろう。
それに安堵しつつも、残念の思うのはなぜだろうか?









「白…ですか?何でです?」
「それは秘密」

「何で秘密なんですか?」
「秘密だから秘密」









すると彼女は、桃色の頬をぷくっと膨らませて「じゃー、いいですよ」と拗ねて見せた。
感情が顔に出やすいのもあるだろうが、これも随分可愛い仕草だ。









「その素敵な衣装を纏った姿を是非とも見てみたいね」
「えぇっ!?」









何言っているんですか、と言わんばかりの驚き方をされたけど、それも予想範囲。
笑ったり、恥らったり、怒ったり、拗ねたり、驚いたりと本当に君は忙しいコだね。
そんな一生懸命な君を見て思わずクスリと笑うと君は、やっぱり予想通りの反応を見せてくれる。









「もう!また私をからかったんですねっ!!」
「そんなことはないよ。本当に見てみたいなと思っただけだから」









すると君は、今度は真っ赤な顔をして俯きつつ、ちらりと俺の顔を伺う。
頬を真っ赤に染めて、少し上目遣い気味のその表情に、俺は胸の奥の鼓動が跳ねるのを感じた。









俺はすっかり君の一挙一動に惑わされているみたいだ。
もう何度も確認していることだけど、本当に怖い病気だね、俺が患っているこの“病”は。









「その姿、俺に見せてくれる?」
「え?何の姿をですか?」









何の姿を、だって?
そんなの決まっているだろう?









とぼけているのかと思えるその言葉も、君の本心からの言葉なんだよね。
話を聞いてないわけじゃなくて、本当に分かっていないのだから仕方がない。









「白いワンピースを着た、君の姿をだよ」
「そ、そんなの見てどうするんですか!?それに、撮影で着るだけなので見せられないですよ!
 撮影が終わったら着替えちゃうんですから!」









それも重々承知しているよ。
でも本当に見てみたいと思ったから、そう言っただけなんだ。
……君がどんな反応をしてくれるかな、という期待も込みだけどね。









「それは残念だな。それなら雑誌が出たら見てみることにするよ」
「み、見なくていいですよ!」

「どうして?」
「…………だって、恥ずかしいじゃないですか!」









絶対見ないでくださいね、とものすごい形相をしながら念を押す君だけど、ごめんね、そんな風に言われると余計に見たくなる。









「雑誌を買った人は見てよくて、俺はダメなわけ?」
「ぐっ……」









ちょっと卑怯かなとは思うけど、君が否と言えないような言葉をあえて使わせて貰うよ。
他の人は良くても俺はダメなんて、ちょっと理不尽過ぎるだろう?









「一購入者なら見ても構わないよね?」
「………そう言われたら何も言えないじゃないですか…」









それが狙いだからね。だからそろそろ観念してくれないかな。

すると君は、ちょっと何かを考えるような仕草をして、俺に申し訳なさそうな顔で尋ねた。









「あの……ちょっとお尋ねしますけど、その雑誌を敦賀さんが買うんですか?」
「そうだね、そういうことになるね」

「その雑誌………ティーン向けですよ?しかも女性向け」
「それはそうだろう。それがどうしたの?」









初めに君がそう言ったじゃないか、ティーン向けの雑誌だって。
なのにどうしてそんな疑わしい表情で俺を見るかな?









「敦賀さんが買うんですか?」
「俺が買わないで誰が買うの?」




「それはそうかもしれませんが、敦賀蓮がそんな雑誌を買うのはどうかと思いまして……」
「………何かおかしい?」




「何と申しますか、敦賀さんのような二十歳の男性が買うというのが想像つかなくて。
 むしろ、人気俳優・敦賀蓮がそれを購入するという状況があまりにも違和感があるというか……」









なるほどね。
ティーン向けの女性雑誌を購入するっていう行為に疑問があるわけだ。









「恥ずかしくないですか?」
「君が載っているなら、別に恥ずかしくはないけど」









戸惑うことなく答えた俺に、君はなぜか動揺してあらぬ方向をぐるぐると見ながら頭を抱え出した。









「分かりました、敦賀さんっ!雑誌は私が買います!それをお渡ししますっ!
 だから敦賀さんは絶対に買わないで下さい!いいですね!?」









捲くし立てるように俺にそう言う君の表情は、とても切羽詰っていて、まるで脅迫されているのようだ。
その迫力を前に俺はひとつ頷いてみせると、君は心底安心したというような表情を見せた。









「どうしてそんな安心しているのかな?」
「どうしてもこうしてもありません!敦賀さんがそれを買う姿なんて想像もしたくないんです!
 お願いですから、もう少しご自分の立場というか、イメージというものを自覚して下さいっ!!」









立場?
………男だからそういうものを買うのはおかしいということなのか?










だとしてもイメージというものが分からない。
分からないが、とにかく君がそれを俺に渡してくれるというならそれでいい。









「よく分からないけど、分かった。君が渡してくれるのを待つことにするよ」
「お願いしますね!」









君は全く意識していないのだろうけど、これは俺にとって役得というやつだ。









「君が俺に直接渡してくれるんだろう?」
「もちろんです!他の誰かに渡して貰うなんて事をしたら、意味がありません!」









どういう風に意味がないのかは分からないけど、俺にとって大事なのは“君が直接渡してくれる”ということ。
これでひとつ君に会える口実ができたのだから、これを役得と言わず何と言うのだろうか。









「それじゃ、楽しみにしておくよ」
「はい!」









それから次の仕事までの間、俺達は他愛ない話を続けた。
一生懸命に話をしてくれる君の笑顔を見ながら、ゆっくり時が過ぎることを祈って。



















君への想いを自覚してから、俺は本当に変わった。
人と関わることが煩わしくて、その場その場を取り繕っていたあの頃とはまるで正反対に、君との繋がりをこんなにも求めているのだから。









少しでも会いたい









少しでも話をしたい









少しでも傍にいたい









日ごとに増す想いは留まることを知らなくて、自分でも持て余してしまうけど。
こんな自分も悪くないと思ってしまう。









君の言葉ひとつにこんなにも心が揺れる俺を、君はどう思うのだろうか。










それを知りたいような、知りたくないような………









だけど、この感情だけは何とか抑えないと



















“少しでも触れたい”



















そう









これだけは





























END









































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【あとがき】


蓮さん視点の小話。
もちろん、キョーコちゃんは約束をしっかり果たします。
雑誌撮影が終わって、販売されるその前に送られてきた雑誌を
いの一番に蓮さんに手渡します。


そしてそのお礼と称して、彼はきっと食事にでも誘うことでしょう。

もちろん“少しでも傍にいる”ために




作成 2008/01/15 00:59
更新 2008/02/02 21:21

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