「お前…実は独占欲強い方だろう?」









と、俺は思ったことを口にしてみる。
さり気なく軽く突っつくイメージで。









「は?そんな事ないですよ」









そんな事ない……ねぇ。










何を以って“そんな事ない”と括っているんだろうねぇ、この男は。









「ついでに外堀から埋めるタイプだよな?…お前らしいと言えば、らしいんだけどさ」









呆れついでにもう一つを口にしてみるが、この男はあっけらかんとした顔をして見せる。









「何を埋めるんです?…というか何の話です?」









完全にシラを通すつもりらしい。
流石は役者ってところか。
何でもない顔して平気で言えるんだから、本当に大したもんだよ。



















俺がどうしてこんな質問をしているかだって?









そういう現場に居合わせちゃったんだよね。









常に行動を共にしているマネージャーだから、こういう現場に居合わせることも少なくないんだけどさ。





















【無自覚な独占欲】




















それは、つい先程のことだった。









目が回るほど忙しくて、ホントにどうにかなるかと思ってたところで、ようやく二時間ほど空きができたんだ。
蓮のNGなしの演技のおかげなんだけどね。
頼りになる男だよ。ホントにさ。









撮影していた富士TVのスタジオを出て、長い廊下を蓮と二人で歩いていたんだよ。
適当な会話をしながらね。

そうしたら急に蓮が立ち止まったんだよ。










あれ?と思って、蓮の見ている方向に視線を向けたら、居たんだよ。彼女が。
本人は否定も肯定もしないけど、蓮の想い人である彼女が。









「あれって、もしかしなくてもキョーコちゃん?」
「…みたいですね」









その時の蓮の表情を見せてあげたかったよ。
誰にって?そりゃーもちろん、キョーコちゃんにさ!










はにかむような照れた笑顔って言うのか?
はじめて見たよ!俺は!









いやいや、貴重なものを拝めて俺は満足したね。
でも、すぐに蓮の顔が変わったんだよ。










…険しい顔にね。









原因はすぐに分かったけどね。









少し離れたところにある休憩室にキョーコちゃんは居たんだ。
ドアが全開に開いていたから、中の様子がよく見えたんだけど、どうやら一人じゃないみたいなんだ。










誰かと話す声…話すというよりも言い争うような声。

ちょっと穏やかじゃないよな…と俺が思っているうちに、蓮はさっさと歩き出したんだよ。
もちろんキョーコちゃんがいる休憩室を目指してね。









「教えません!絶対に!」
「なんでー?いいじゃん別に!減るもんじゃないでしょ?」









キョーコちゃんはすごい剣幕で相手を罵っていた。
ん?…というか相手の男の後姿…どっかで見たことがあるような…









「嫌です!」
「じゃあさ、逸美ちゃんの教えてよ?」
「え?あ…その…」









あれ?
キョーコちゃんだけじゃなくて、百瀬さんまで一緒にいる。










開けっ放しのドアを潜ると、それに気がついたキョーコちゃんが驚いたような声をあげた。









「あっ!敦賀さん!」









蓮の顔を見た途端、キョーコちゃんはほっとしたような顔を浮かべたんだ。










おい!蓮!ちゃんと見たか?今のキョーコちゃんの顔!









「最上さん、どうしたの?大きな声出して」









するとキョーコちゃんが、百瀬さんの手を取って男の脇を通り抜けて、蓮の背に隠れた。
よかったなぁ!蓮!お前頼りにされてるぞっ!









「最上さん?どうした?」
「…………」
「蓮の背になんか隠れちゃって、どうしたの?キョーコちゃん?」









事態がよく分かっていない蓮(いや、俺もだけど…)は、背に隠れて、目の前に背を向けている男を剣呑な瞳で睨むキョーコちゃんを見る。









「へぇー。京子ちゃんって“最上キョーコちゃん”っていうんだ?
 じゃあ、最上さんって呼ぼうかな?それともキョーコちゃんの方がいい?」









そんな呑気な声をあげる男。
…この声聞き覚えがある!聞き覚えがありすぎる!









「貴方なんかに本名で呼ばれたくないです!さっさと帰ってください!」
「つれないなぁ〜。ま、怒った顔も可愛いんだけどね?」









軽口を叩きながら、振り返った男。
それは、俺が予想していた男だった。









「き、貴島ぁーーー!?」
「よっ!社君に敦賀君!奇遇だな〜」









キョーコちゃんと百瀬さんに不貞を働いていたのは、貴島だった。
この通り軽いキャラなのだが、実は子供好きだったりする意外性のある男。そしてDARKMOONの共演者でもある。









「何してるんです?」
「いや。共演女優さんをちょいと口説いてただけだよ」









何て事はないだろ?…と言わんばかりに手を外人風に振り、あっけらかんと応える男。
俺は正直、この手の男はあまり好まない。
蓮とはよく仕事で共演するから、大きな声では言えないけどな。

適当に挨拶をした貴島は、蓮の背に隠れているキョーコちゃんを覗き込む。









「ね?教えてよ。キョーコ」
「絶対嫌です。…というか、呼び捨てにしないで下さい!貴方なんかに呼ばれる筋合いありません!」









キョ、キョーコ!?呼び捨てっ!?
しかし、キョーコちゃん強いな…仮にも芸能界の先輩相手に食ってかかるなんて…やっぱり変わってる。









「分かった分かった!じゃ、キョーコちゃん。お願い!教えて?」
「低姿勢に出ても駄目です!」









貴島…悪いことは言わない。
もう止めておけ。命が惜しければもう止めておいた方がいい。
俺はそろそろ、隣の男の顔が見れなくなってきたよ。









しかし、一体何の話なんだ?
さっぱり分からないぞ?









「キョーコちゃん。一体何の話?」
「その…」
「携帯の番号聞いてるだけだよ。ついでにメルアドもね」









軽くウィンクしながら、そう言う貴島をキョーコちゃんはギンとした強い目で睨んだ。










怖い、怖いよ!キョーコちゃん!









しかし、貴島もある意味じゃ打たれ強い男だ。
キョーコちゃんの剣呑な視線を受けながらも、飄々としている。









「敦賀君は、確か逸美ちゃんの番号知らないって言ってたよなぁ…。じゃあ、キョーコちゃんの番号も…」









キョーコちゃんはハッとした顔をすると、貴島が言い終わらない内に、蓮を見上げながら必死に叫んだ。









「駄目ですっ!!!絶対に、絶対にっ!教えないでくださいっ!!!」









必死になっているキョーコちゃんを見た貴島は、意外そうな顔をし、ニヤリと口の端を持ち上げた嫌な笑いを浮かべた。









「へぇ〜。敦賀君知ってるんだ?キョーコちゃんの番号。意外だなぁ」









なんだか雲行きが怪しくなりはじめたな。
これはひと波乱起こるかも…









「相手役の逸美ちゃんの番号も、婚約者役の大原さんの番号も知らないって言ってたのに。
 なーんで未緒役のキョーコちゃんの番号は知ってるの?」









蓮の顔色を伺うように、貴島はゆっくりと言葉を紡ぐ。









「キョーコちゃんに聞いても教えてくれないし。敦賀君、教えてくれよ?キョーコちゃんの番号をさ」
「悪いね。それはできないよ」









ここにきて、漸く口を開いた蓮。
だが、その声が発せられた瞬間、キョーコちゃんの顔が凍った。










俺も固まったけどね。

ものすっごくキュラキュラしたオーラを放ちながら、超絶なスマイルを浮かべていたのだから。










俺はこの顔を見たことがある。
そうだ!あれはアノ時と同じ笑顔だ。









軽井沢のロケで、アイツが…不破尚が、キョーコちゃんを尋ねて蓮の部屋にやってきた時に見せた笑顔だ。
笑顔なのに…否、笑顔だからこそ、俺はものすっごく蓮が怒っているような気がしてならなかった。









あの時と同じ笑顔だ。
これは本当にヤバイかも。









貴島!さっさと帰ってくれ!これ以上、蓮を刺激するな!
つまりは、キョーコちゃんにちょっかい出すな!









…そう言えたらいいのに。









「どうしても?」
「どうしても」

「俺が頼んでいるのに?」
「彼女が嫌がっている限り駄目」

「キョーコちゃんが嫌がらなかったらいいワケ?」
「………。…無理だと思うけど?」

「なんだよ?その間は?」
「何が?」









貴島は、ふうっと大きく息を吐くと、ヤレヤレといった風に肩を竦めた。









本当に早く帰れよ。
キョーコちゃんも百瀬さんも困ってるし…










何より俺は、蓮が怖い。









「君も頑なな男だよな。ま、それが君の良い所でもあるけどさー」









そして、相変わらず蓮の背中に隠れてるキョーコちゃんと蓮の顔を交互に見ながら、何か思いついたように手を叩いた。









「ああ。もしかして……そういうこと?」









ふーん。と顎に手を当てながら、何やら一人で納得している様子。
そして、キョーコちゃんの右側にいる百瀬さんに向かって微笑んだ。









「逸美ちゃんもダメ?」
「え……?」









突然矛先を変えられて明らかに動揺している百瀬さん。
これはいけないと思った俺が動く前に、キョーコちゃんが鋭い瞳を貴島に向けた。









「やめてください!百瀬さんが困っているの分かりませんか!?」
「おっかない顔をするねぇ。さすがは未緒」









貴島は、百瀬さんに向かって「ごめん。ごめん」と謝る。
それにほっとした百瀬さんは、安堵の溜息を漏らした。

そして、貴島はゆっくり蓮の背にいるキョーコちゃんに向かって手を伸ばした。









が、その手がキョーコちゃんに届くことはなかった。










貴島の手が伸びた瞬間、蓮はキョーコちゃんを庇うように、そっと自分の腕を上げたからだ。
貴島の腕がキョーコちゃんに届かないように。









「牽制……かな?やっぱりそうなんだ?」
「………」









何も答えない蓮を貴島はじっと見つめた。









「お兄さん。顔が笑ってないですよ?」









だろうね…なんとなく想像つくよ。蓮がどんな表情をしているかは…









「わかった、わかった。もう諦めるよ。だからそう睨むなって!」









俺は恐る恐る蓮の顔を見上げた。









蓮は無表情だった。
先程までのスマイルはどこにもなく、ただ強い瞳でじっと貴島見つめている。









「あーぁ、キョーコちゃん…いや、京子ちゃんにも逸美ちゃんにもフラレちゃったなぁ」









貴島は、仕方が無いとばかりに笑顔を浮かべて、キョーコちゃんと百瀬さんの二人に「ごめんね」と頭を下げた。
キョーコちゃんは相変わらず厳しい表情をしていたが、百瀬さんは「あ、いえ…」と低姿勢な態度でそれを受け入れたようだ。

とりあえず、これで一件落着…かな?









「そうだ、逸美ちゃん。今日の撮影なんだけどさ」
「あ、はい。何でしょう?」









先程までの軽い空気が消えた貴島は、百瀬さんと打ち合わせを始めた。
さて、こっちの二人はどうするんだろうか?









キョーコちゃんが蓮の顔を見上げながら、何やらもじもじしている。
何かを言いかけては下を向いて黙りこみ、もう一度顔をあげる。そんな行動を繰り返していた。
漸く決心がついたのか、キョーコちゃんはぐっと唇を噛んでようやく蓮に声をかけた。









「あ、あの…敦賀さん?」
「………」









おいおい、蓮。
沈黙はまずいだろう?キョーコちゃんが困ってるぞ?









だが、俺のそんな心配も杞憂に終わった。









「その…ありがとうございます」
「お礼を言われることなんてしてないよ?」

「でも………」
「いいから…………ね?」









言い募ろうとするキョーコちゃんの頭を撫でて、蓮はこれ以上ない笑みを零した。









おぉぉおおおおおおお!で、出たぁぁあああああああ!!
キョーコちゃんだけに見せる、蓮の特別な笑顔!









すると背後で、ポトリと何かを落とす音が聞こえた。
振り向いて確かめると、それは貴島が落としたペンの音だった。









貴島は、これ以上開けると目玉が落ちるんじゃないか。とばかりに瞳を大きく見開いていた。
その傍らで台本らしきものを開いていた百瀬さんの顔は真っ赤に染まっている。









あぁ、君たちの気持ち。よく分かるよ。










俺もはじめて見た時は、あまりの甘ったるい……失礼、蕩けんばかりの笑顔に開いた口が塞がらなかった上に、赤面したからね。









俺が見ていることに気がついたのか、貴島は座っていた椅子からさっと立ち上がり、百瀬さんの手を引いて、こちらに向かって猛スピードで走ってきた。
そしてそのまま俺の右腕を掴むと、瞬間移動をしたかの如き速さで部屋から出て、ドアをバタンと閉めた。









「社君…」
「な、何?」

「なにアレ?俺は幻覚でも見ていたのか?」
「…あー、なんていうか…ねぇ?」









気持ちはよく分かるさ。でも、何て言えばいいのかまでは分からん。









「ひとつ確認したいんだけど……あの二人はやっぱりデキてんの?」
「…………え?」









やっぱりって何?









「だってそうだろう!?敦賀君、俺が京子ちゃんに手を伸ばそうとしただけで、普段は絶対に見せない。
 すんげえおっかねえ瞳で睨んだんだぞっ!?」
「あー。まぁ…何というか…」









実は結構怖かったんだな?お前?









「それに今のは何だ?アレは何なんだ?男の俺まで赤面しかねないツラしてたぞ!?」









俺は赤面したことあるよ…









「別に…付き合ってるってワケじゃないんだよ。残念なことに」
「は?マジか?それであの牽制なのか?………おいおい、有り得ないだろう?」









お気持ちはごもっとも。









「っていうか、蓮に自覚がないし」
「……今、何て言った?」

「だから、蓮に自覚がないんだよ」
「…………マジ?」
「マジ」









この一言で通じる貴島は鋭い男だと思った。
いや、これが普通なのか?
超恋愛音痴のそばにいるせいで、その辺りが分からない。









「逸美ちゃんは知ってた?」
「仲が良いっていうのは、ロケの時から知ってはいましたけど…なんとなく、そうなのかなとは思っていたんですが…」









相変わらず百瀬さんの顔は赤い。
無理も無い。









「…あの顔って…“美月”に向けている顔ですよね?」
「まぁ…」









逸美ちゃんも思ったより鋭いんだね。
ちょっと意外だよ。









「バレバレじゃねーか。なんで俺たちがいるところであんな顔するんだよ?」
「いや、だから。多分それも無自覚」









有り得ないと頭を抱える貴島。










そうだろ?有り得ないよな!あー、よかった。仲間がここにいるよ!









「んで、肝心の京子ちゃんはどうなの?」
「さ、さぁ…それは何とも言えない」









なんだよー。と貴島が嘆く。









「あー。でも、敦賀君の顔見るなり、あからさまにほっとした顔をした上に、敦賀君の背にさっさと隠れたんだから、望み薄ってワケじゃないよな?」
「私もそう思います。ロケの時とか撮影の合間とかは、何だかんだ二人が一緒にいるところよく見ましたし、キョーコちゃんも楽しそうだったし」









え?何?そうなの?
キョーコちゃん楽しそうにしてたの?









「んじゃ、時間の問題ってヤツかな?」
「どう思います?社さん?」









いや、そんな期待いっぱいの顔をされても…
まず蓮に自覚がないし
あれは否定してるだけだと思うけどさ。

でも肝心要のキョーコちゃんは“もう恋はしない”とか宣言しちゃってるし。
結構前途多難なワケよ。









「しかし面白い話だなぁ」
「何がだ?」

「そりゃー、芸能界一いい男って言われているあの敦賀蓮が、一人の高校生の女のコに翻弄されてるんだろ?面白いだろ、コレ?」
「確かに…」

「まー時間の問題なら、楽しみに待っておくとするかな?」
「あ、いや…」









だから、前途多難なんだって!









「それじゃもう行くわ、俺。邪魔してまた睨まれたくないからさ」
「私も行きます」









そうして二人は、俺を残してさっさと行ってしまった。









参った。

どのタイミングで戻ればいいんだ?









それから十分ほど経って、ようやくキョーコちゃんが声をかけてくれた。
「私はこれから出番なので、先に行きますね」とにこやかに笑って。

続いて、すっかりご機嫌を直した蓮が現れた。









機嫌が直って何より…っていうか、何でそんなにご機嫌なんだ?
俺がいない間に何かあったのか?
うぅー。気になる!すごく気になる!

どうしても気になる俺は、それとなく蓮に尋ねてみたが、さらりと流されてしまった。









そして最初の会話に戻る









キョーコちゃんが嫌がらなくても、お前はきっと携帯番号もメルアドも教えなかっただろうことは、火を見るより明らか。

まだ自分のものでもないのに、彼女に他の男が触れることを厭ったその行動を、世間では何と言うか知ってるか?









それが“独占欲”だ。









付き合ってもいない以前から、そんなんじゃ…お前。
この先、キョーコちゃんと恋人同士になったら、ものすごく嫉妬深い男になりそうだな。
しかも性質が悪いことに、紳士面でさり気なく束縛しそうだ。









実は何気に…いや、無意識なのかもしれないが
近付く相手に対する牽制も必ずするよな?










俺はちゃんと見てるんだぞ?

それが用意周到な外堀埋めってヤツだ。









何はともあれ、俺は二人が上手くいってくれることを祈ってるよ。

蓮が自然な笑顔を見せられる相手なんて

きっと、金輪際現れないと思ってるから









ただ…









まずは、自覚してくれ!

自覚しているなら、いい加減白状しろ!









何より









毎度毎度、こんな事がある度に痛む俺の胃を、一刻も早く安心させて休ませてくれ。









頼んだぞ!蓮!













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【あとがき】


社さん視点のお話第二弾です。
随分昔に書いたものです。今頃のアップですみません。


いつもの短編の倍くらいの長さになってしまいました。
書き始めたら止まらなくって(笑)

色々と微妙なところもありますが、
どうかお見逃しください!!


貴島さんについては、逸美ちゃんと大原さんの携帯番号云々の
蓮さんとのやり取りと子役の子と戯れている様子から
性格を捏造しました(汗)

何となくこんなキャラかと……
オリキャラを使おうとしたのですが、あんまり好きじゃないので
貴島さんを出演させてみました。
微妙な性格ですみません(><)





作成 2007/12/20 12:39
更新 2008/03/08 21:55

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