「ひとつ聞いてもいいですか?」
「なに?」









「敦賀さんて、メイクしてるんですか?」

「………」



















【お手をどうぞ お姫様】




















「………君は、俺を何だと思ってる?」
「芸能界一いい男・若手No.1実力派俳優・敦賀蓮。と思ってますよ?」
「………………」









ここは敦賀邸。
都内の高級住宅街の一角にそびえたつ、超高級マンションの一室だ。









その無駄に広すぎるリビングに配置された、これまた「一人暮らしなら、こんな大きいモノは無駄よ」とばかりに大きいソファに座っている少女と、その少女の前に片膝を立てている男がいた。









少女の名は、最上キョーコ。
男の名は、敦賀蓮。









数刻ほど前から、ずっと向かい合った体勢のままでいる。

テレビも音楽もかかっていないこの部屋に響くのは、キョーコと蓮の会話の音と彼が動くたびに聞こえる音だけ。









「ドラマや映画の撮影…後はモデルの仕事の時とかならあるよ」
「普段は?」

「するわけないだろう?俺は男だよ?」
「そうですか…それは、そうですよね…………はぁ…」









自分の見当違いだった蓮の答えに、キョーコは素直に残念に思った。
それはもう、地にめり込みそうなほど残念に…、だ。









「なんでそんなに残念そうなの?」
「全くの見当違いだったからです……。それに、そうじゃないなら……悔しいし……」









キョーコの言いたいことが分かった蓮は、己の右手を見て「ああ、そういうことか」と納得した。









「大丈夫。何回かやれば上手くなるから。」
「……だといいんですけど。」

「話変わりますけど、敦賀さんの肌って綺麗ですよね?何かしてるんですか?」
「そうかな?普通だと思うけど………。特に何もしてないよ」









キョーコは手を伸ばせば、すぐ届く蓮の頬にそっと触れた。
キメ細やかで、すべすべしていて、十分な弾力がある。










前にメイクさんが言ってた言葉を思い出す。









『男性なら、やっぱり敦賀君が一番かな?すごく繊細なのよ!
 …そうそう、ジャンルは違うけど、不破君も綺麗な肌してるんだけどね』









最後の一文を、うっかり思い出してしまったキョーコの眉間に細かい皺が刻まれた。
それを見止めた蓮は、キョーコのおでこを軽く突いた。









「女優さんがそんな顔するもんじゃないよ?」
「うっ…………ごめんなさい」









素直に謝るキョーコに今度は微笑む蓮。
蓮の笑顔を見て、ほっと胸を撫で下ろしたキョーコは、またしても思ったままを口にした。









「食生活が粗雑にも関わらず、どうして肌の状態がいいのかが甚だ疑問です」
「粗雑って……」









ついこの間、携帯辞書を使って調べた言葉を、まさかこんなところで聞くことになるとは思っていなかった蓮は、小さく苦笑した。









「本当のことです。あまり心配かけさせないでください」
「最上さん。俺のこと心配してくれてるんだ?」









一瞬動きを止めたキョーコだが、少し俯くとボソリと小さな声をあげた。









「……心配じゃなきゃ、わざわざ食事を作るためにここまで来ませんよ」
「………」

「敦賀さん?」









答えたのに何も言わない蓮を心配して、キョーコは少しだけ視線をズラして蓮を見る。
蓮は、キョーコの顔を凝視したまま固まった石像のように瞬きひとつしない。
自分は何かおかしなことを言ったのか、と心配になったキョーコは、もう一度蓮に声をかける。









「敦賀さん?大丈夫ですか?」
「あ……いや………。その、ありがとう」









漸く反応を見せた蓮は、考えていたことを悟られまいと笑顔を浮かべて礼を述べた。
本当はからかうつもりで言った言葉だったのに、キョーコが予想外のことを口にしたので、つい思考が停止していたのである。

まさか本当に自分を心配してくれてたなんて、露ほども思っていなかったのだ。










それゆえに、蓮はキョーコの言葉が嬉しかった。単純に嬉しかったのだ。

ただ、どんなに嬉しくてもこの男の場合、その反応が素直に現れない。
無表情で淡々としているか、今のようにフリーズするかだ。










それが素の敦賀蓮なのだから、仕方がないといえば仕方がない。

20歳男の初恋は、実に可愛い。
尤も、それもこの男…敦賀蓮だからこそなのだろうが。









外見には全く表れていないが、心ではかなり動揺していたので、蓮は大きく息を吸った。
そして、そっとキョーコの頬に触れる。









「君の肌の方が、よっぽど綺麗だけどね。柔らかいし、温かい」
「んなっ!」









撫でるように触れる蓮の指先から伝わる熱が、キョーコに激しい動揺をさせる。









「つ、敦賀さん!それ!その触り方はセクハラですよっ!?」









動揺のあまり、事務所の尊敬する先輩をセクハラ呼ばわりするキョーコ。
さすがの蓮も、この言葉には反応を示した。









「君だって、さっき俺にセクハラをしただろう?おあいこだよ」









キョーコの行動を逆手にとった立ち回り。
見事…という言葉を送りたいが、このキョーコという娘も中々の度胸が据わっている。
すぐ様、返し用の刀を振り上げた。









「私は撫でてなんかいません!貴方のこの手つきは何ですか!これをセクハラと言わずなんと言うんです!?」









鋭く切り込む。これは致命傷のはずだと確信したキョーコ。確かに普通の人間相手ならこれで勝負あり、だろう。
だが、相手が悪い。これは相手が悪かったとしか言いようがない。









「ただ、愛でてるだけだよ」









ぼんっと爆発したように、赤面するキョーコ。
特上のスマイルでにっこりと微笑む蓮。
もちろんこれは、対キョーコ用の必殺スマイルだ。

勝負あり。そこまで。









また負けた…と項垂れるキョーコを尻目に、蓮はふっと笑みを零した。
それは、キョーコを慈しむかのような優しい笑顔。
だが、項垂れているキョーコはその顔を見ることはなかった。









「綺麗な肌だから、あんまり気が進まないんだけどね……ほんとは……」
「え?何です?」

「いーや。こっちの話」
「……?」









「よし。できた」
「ほんとですか!?わぁー見たい!見たい!」









パンパンと手を叩きながら、蓮はようやくその腰をあげる。
キョーコは早く見てみたいと、蓮を急かすが、そうは問屋はおりない。









「もうちょっと我慢。次はこっち」









宥めるようにキョーコの頭をポンポン叩く。
そしてとても楽しそうな顔を浮かべた。









「どうせなら全部やった方がいいだろう?」
「敦賀さんって、実は、結構な凝り性さんなんですか?」

「そうでもないと思うけど?」
「凝り性の私が言うんですから、間違いないです」
「ふーん」









彼女がそう言うなら、そうなんだろうな。と思いつつ、ぼんやり浮かんだイメージを作り上げるべく、せっせと手を動かす。









それから10分後。
ようやく完成したのは、フルメイクとヘアメイクをされたキョーコの姿。
ちゃっかり、ふんわりとした薄桃色のワンピースまで着用している。









フェイスメイク、ヘアメイク、スタイリストは、もちろん蓮。
ワンピースも何気に用意していたらしい。一体いつ用意したのかは分からないが。
全部彼の手で飾られた。









「す………っごっい!敦賀さんスゴイっ!!!うわぁ〜〜可愛いメイク!可愛いヘア!可愛いワンピース!」









ふんわりと柔らかそうなイメージの膝丈のワンピース。
派手過ぎず、地味過ぎず…丁度いいバランスの逸品。

髪はいつもの髪型よりも少し落ち着かせ、メイクは少し薄めだが、ポイントポイントで使っている暖色がよく映えている。
口紅の色はオレンジがかった薄めのピンク。









「イメージとしては、落ち着いたお嬢様。かな?…ちょっと元気なお嬢様になったけどね」
「でも、でも!ほんっとーにすごいです!何か私じゃないみたい!」









歓喜に狂舞しそうな勢いで跳ね回るキョーコ。確かに“ちょっと元気なお嬢様”だ。
メルヘンの色を瞳に宿して、何やら妄想しているキョーコを見て、蓮は“昔から何も変わらないな”と小さく呟く。









「さてと」
「あれ?敦賀さん。いつの間に着替えたんです?」









黒いジャケットに黒の細身のパンツ。
中には肌触りのよい、胸元がV字にカットされたシャツを一枚。
首から下がるのは、いつも身に着けているアクセサリー。
キョーコと並ぶと丁度良いバランスのファッションだった。









何を着ても様になるヒト…なんて思っているキョーコをじっと見ると、蓮は、いつもの笑顔を浮かべた。









「君がメルヘンの国の住人になっている間にね」
「えっ…」









流石に気恥ずかしくて顔を背けたキョーコ。自分のメルヘン癖はすでにバレているとは言え、改めて言われるとやはり恥ずかしい。









「せっかくだからデートでもしましょうか?」
「へ?」









好きなところに連れてってあげるよ。と優しく微笑みながら、蓮はキョーコの前に片膝を立てる。









「お手をどうぞ お姫様?」









キョーコは顔を真っ赤にして「そんな気障なこと言わないでください」と言いながらも、
にっこりと笑って、差し出された蓮の手を取った。









「よろしくお願いしますね?王子様」
「仰せのままに…」









ドアを閉める音が暗くなった部屋に響く。










誰もいなくなったリビングのソファには、さっきまでキョーコが必死に読んでいた雑誌が一冊。
それはある見開きのページが開いたままだった。









“はじめての方にもかんたんにできるメイク術”









お姫様の一言で、はじまった今夜のお話。
それを聞いた王子様が、可愛いお姫様の為に一肌脱いだのです。









その一言とは。









『私、メイクが下手なんです』





























END...






















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【あとがき】


これまた結構前に書いたものだったりします。

蓮さんがメイクできる人かどうかわからないですが…
これも愛嬌だと思っていただけると幸いですvv


これからしばしの間、更新が週一回くらいになるかと思います。
二週間ほどなので、全く更新してない本館よりはずっとマシですけど
二日に一回だった更新が一週間に一回じゃ……何となく微妙
ネットの工事が29日なので、それまでは我慢しなくちゃ……
更新は実家からやります!しばらくの間、週末には実家に帰るのでw



週の真ん中くらいにも帰りたいなぁ……
そうすれば更新ができますから(><)


作成 2007/12/07
更新 2008/03/16 23:30

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