お前がどれだけ彼女を大切に思っているかは俺だって分かってる
よぉーく分かってる














けどな…頼むから














時と場合と場所…いや、せめて“場所”は選んでくれ














【囚われのお姫様を助けたのは…】










相変わらず殺人的に忙しい男・敦賀蓮。
俺がマネージメントをしている業界一と言われる俳優だ。









「蓮。とりあえず今日はこれで終わりだ。明日は9時から例のドラマの撮影だからな?大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。」









現時刻 PM20:00

蓮が運転する車内で、明日のスケジュールを確認する。










何でマネージャーである俺が運転してないのかって?
もちろん、免許を持ってないからだ。無免許で運転することはできないからね。









免許取れって?
そうしたいのは山々なんだけど…毎日がこう忙しいとね。
何て言っても、日本一忙しい男のマネージャーなんかしてるんだ。毎日共に行動している俺も、それ相応に忙しいんだよ。









理由はそれだけじゃないけど…










これは体質だからね…半分は諦めているんだ。
機械に愛されなかった男とは、まさに俺の事。










“機械破壊人間”=クラッシャー










複雑な肩書きだけど、事実なんだから仕方ない。









おっと…俺の事はどうでもいいんだった。
えっと、明日のスケジュールは…









「うーん…今日もだいぶハードだったけど、明日の方が辛いかもしれないな」
「そうですか」









随分あっさりとした返事。まぁ、いつものことだけど…さすがの俺も心配になってくるよ。
蓮、お前。疲れとか感じないのか?









街中を縫うように入る車内から、色とりどりの光に包まれる街を眺める。
眠りを知らない不夜城は、いつもと変わらない姿をしていた。
行き交う人をぼんやりと眺めていると、ふと見覚えのあるシルエットを見つけた。









「あっ!!」
「な、なんです?いきなり…」









突然声を上げた俺に動揺したのだろう。蓮は驚いたように俺の顔を見たが、今はそれどころじゃない。









「蓮!車止めて!」
「はい?」
「早くっ!」









蓮は律儀にハザードランプを出しながら、車を左に寄せた。









「何事です?急に車を止めろ…なんて。」
「ほら!蓮!あそこ!」









理由は俺が指を指した方向にある。
見れば済む話だと、蓮の右肩をバシバシ叩きながら教えた。









「あそこって……あれ?もしかして…?」









もしかしなくともそうだよ!
ガラスのショーウィンドウに張り付いて、中に展示されているものを凝視している女のコ。
蓮の可愛い後輩であり、想い人である少女。









「最上さん?」
「うん。キョーコちゃんだ。」









そう、キョーコちゃん。
LME所属の新人タレントである“京子”…最上キョーコちゃんの姿だった。









「でも…キョーコちゃん。あんなところで何してるんだろ?」









ふと湧き上がる疑問。
時計を見ると、時刻は20時をとうに過ぎている。おそらくは仕事あがりなのだろう。









しかし、その行動はおかしい。










単にショーウィンドウを眺めているだけと思ったのだが、よく見るとそうではない。

瞳は病的にキラキラと輝いており、ぴょんぴょんと跳ねている様がまるで踊っているようにも見える。
彼女の周囲は、目に見えるくらいの桃色オーラと花が包んでいる。









「…メルヘン癖」









蓮が何かを呟いたのだが、俺は思案をしていたので何と言ったかまでは分からなかった。









「今、何て言った?」
「いえ…別に何でもないですよ」









苦笑混じりな返事をされたので、俺は視線をキョーコちゃんから蓮に移した。
そして、俺は衝撃という名の驚愕を受けた。









滅多にお目にかかれない蓮の素の表情。









“破顔”









溢れんばかりの愛情と女性なら一瞬で蕩けてしまいそうな笑顔を称える蓮。









本当にキョーコちゃんが好きなんだな、お前は。
男の俺でも思わず赤面しそうな甘い笑顔なんか浮かべちゃって。









ああ、でもお前のことだ。
きっと自分がそんな表情しているなんて思ってもいないんだろうな。









最近はキョーコちゃんに対する恋心を完全には否定しなくなったし、何だかいい雰囲気に見えないこともないし、押さえるところはしっかり押さえてるというか…まだまだ満足できるレベルじゃないけど…お兄さんは素直に嬉しく思うよ。









まぁでも欲を言えば…









とここまで来て、車内の温度が一気に10度は下がったような気がした。









「ん?」









しかも、どうやら気のせいでもないようだ。

冷気の発生源は言うまでもない。俺の左隣の運転席に座している男からだ。










つつつっとゆっくり視線をその顔に合わせた途端、俺はあまりの恐ろしさに身を震わせた。

予想通りの冷めた表情。そして…その漆黒の瞳に静かに宿った怒りの色。










殺気にも似たそれが一点に注がれていた。

その視線の先にはキョーコちゃんがいたはず。
つい先程までは、蕩けそうな笑顔で見つめていたはず。









原因は、至ってシンプルなものだった。
ショーウィンドウに張り付いていたキョーコちゃんに、何やら話しかけている男。
…まだ18,19くらいの少年だ。










あの様子を察するに、おそらくは軟派か何かの類。
ご丁寧にキョーコちゃんの右手まで掴んでいる。









「れ、蓮…?」
「………」









運転席のドアを勢いよく開けて、蓮は左ポケットに入っていたサングラスをさっとかける。

動き出した大魔王を止める術など俺は知らない。
正直、己の身が可愛い。









哀れなスケープゴートに合掌。









「一応…俺も行かないと駄目だよな…」









近寄りたくない。巻き込まれたくはない。
というのが本音だが、俺はあくまで敦賀蓮のマネージャー。
蓮も大人だから変な真似はしないだろうが、念のため…









俺は、車のキーを抜いて外に飛び出した。

蓮は今まさにキョーコちゃん達のところに辿り着こうとしているところだった。




















「ちょっと!離してください!」
「そう言わないでよー。ちょっと俺と遊ぼうよ。イイ店知ってるんだ。ね?ちょっと位いいじゃん?」









キョーコちゃんの腕をがっちりと掴み、嫌がっているにも関わらず軽口を叩く少年。
俺にとってキョーコちゃんは、妹のようなものだ。
そのキョーコちゃんに不貞をする輩はやはり許せない。









「しつこいです!行かないって言ってるでしょっ!!」









キョーコちゃんの高い声が響く。だが少年は少しも怯まない。
無理矢理腕を引っ張り、自分の胸元に引き寄せる。バランスを崩したキョーコちゃんは、そのまま少年にもたれるような形になってしまった。









「ちょっ!!ヤダっ!!」









必死に逃れようとするが、そこは男と女の力の差。引き寄せたキョーコちゃんの身体を腕に力をこめて離すまいとしている。









「無理無理v女のコの力じゃvv」









その時だった。
ふわりとキョーコちゃんの身体が浮き、絡まっていた腕から逃れたのは。










まるでスローモーションを見ているかの如き鮮やかな流れ。

捕まりながらもジタバタともがいていた為か、キョーコちゃんの身体に絡まっていた腕が一瞬緩んだ。
その隙をこの男は見逃さなかった。









キョーコちゃんの身体を自分の腕の中へと閉じ込めて、何が起こったのか全く理解していない少年に向かって、鋭い視線を投げつける。
それは、暗いサングラス越しでも分かるくらいの恐ろしく鋭利な視線だった。









「つ、つ、つっ…!?」









蓮の胸に抱かれたまま、キョーコちゃんは口を金魚のようにパクパクさせていた。
男の正体が蓮だと気がついている反応を示すが、どうやら声にならないようだ。









「な…んだよ…てめぇっ!」









圧倒的な身長を誇る蓮を見上げるようにしながら、少年は叫んだ。
だが明らかに逃げ腰。









それはそうだろう。










蓮はただ黙って人を射殺すような視線を投げつけながら、身体中からは殺意に似たどす黒いオーラを発している。

自分が睨まれているわけでもないのに、俺は寿命が5年は縮まったような気がした。









温厚で優しい“敦賀蓮”はどこにもいなかった。









そして、地獄の最奥から這って出てきたかのような、寒気のする低い声が響いた。









「さっさと消えてくれないか?」









淡々としかし、確実に相手の息の根を止めんばかりに冷えた声。
小さな音だが、その切れ味は鋭い刃。
丁寧な言葉に込められたそれは猛毒。









「なっ、な、なんだよ…こいつ…お、覚えてやがれっ!!!」









お決まりの捨て台詞と共に、一目散に駆け出して逃げていった少年。
その足は恐怖に震えているせいか、何度も転びそうになるのを必死に堪えながら走り、やがて姿が見えなくなった。









その様子を最後まで確認すると、蓮は未だ腕の中で青ざめているキョーコちゃんに視線を落とした。









「大丈夫?最上さん。」









それはとても甘く優しい声。
天使の微笑みと見間違えそうな程の神々しい笑顔だった。









「え…あ…」









そんな蓮を見たキョーコちゃんの顔に安堵の表情が浮かんだ。
柔らかく微笑み、そして肩から力が抜けたようにガクっと身体が揺れた。









「最上さん!?」









揺れた身体を蓮は両の腕で支えた。
キョーコちゃんの身体は小刻みに震えていた。









「ご、ごめんなさい。安心しちゃって…っ…わ、私……」









カタカタと遠くから見ている俺でも分かるくらいに震えているキョーコちゃんを優しく抱きしめる蓮。
そして落ち着いた優しいトーンで何度も繰り返していた。









「もう大丈夫だよ。」









…と。









怖かったんだね…キョーコちゃん…
いつも強気で弱音を絶対に吐かない彼女。









でも、そんな彼女も女のコなのだ。
きっと蓮の顔を見て、ほっとしてしまったのだろう。



















それにしても…



















「いくらサングラスをしてるからとは言え、こんな人の往来でラブシーンはやめてくれよな」









見ているこっちが恥ずかしいくらいに甘い雰囲気の二人。










邪魔をする気はないのだが、さっきまでの大魔王な蓮なら誰にも気づかれないだろうが、今の蓮の雰囲気ならいつ誰に“敦賀蓮”だと気づかれるのも時間の問題。









ここはタイミングを見て介入しなくちゃ…
嫌だなぁ…こんな役目。蓮のご機嫌を損ねそうで怖いよ…



















囚われのお姫様を助けたのは、



















白馬に乗った王子様ではなく



















黒いサングラスをかけた魔王様



















そしてこの数分後。
俺は機嫌を損ねた魔王様に、鋭い視線を投げつけられたのは言うまでもない。





















******************************************************

【あとがき】


かなり即興で書きました。
テーマとかロクに考えずに(笑)

単純に社さん視点のお話を書きたかったんです。
もちろん蓮キョで…v

最近、毎日更新してます。
(現在は尚ちゃん視点の中編?長編?の蓮キョを!)


本館は一週間に一回だっていうのに…(汗)

社さん視点はまたチャレンジしたいと思います!
書きやすいし、楽しいし、
まるで自分がその光景を見て突っ込んでいるような気がするのでv





作成 2007/11/29 Thu 13:25
更新 2007/11/29 Thu 21:48

******************************************************

戻る Galleryに戻る Homeに戻る
ページTOP