【最後の試練】






























 そこには、シベリア人も真っ青で、エスキモーも震える程の絶対零度の空気が流れていた。
ある男の逆鱗に触れ、嫉妬の権化と化した自分の恋人を、ぶるぶる震えつつも一生懸命その「荒ぶる魂」を鎮めようとする彼女。
しかし、傍から見れば彼等は恋人同士というよりも、草食獣と肉食獣…いや、最早生贄とそれを食すものとまで言うべきであろう。









「あ…あの…敦賀さん…」
「………何?」
「ままままま…まだ、怒ってらっしゃいます?」
「……………」









今にも嬉々として飛び出しそうな怨キョを、頭にいくつもの蝶々結びを作って食い止めているキョーコ。
今の彼女は只管脂汗を掻いており、それを全てかき集めれば商品化出来るのでは…という勢いである。
事の始まりは…そう、キョーコがローリィに呼び出されたのが切欠だったのだが…





























「え?私がラブミー部を卒業?」
「蓮から聞いたが、お前さん、漸く人間にとって大切なモノを取り戻せたようじゃねえか?」
「あ…//////ありがとうございます。これも社長を始め皆様のおかげで…」









ニヤニヤ笑いながらそう言うローリィに、思わず顔を赤らめるキョーコ。
しかし…









「そこで、最上くんにラブミー部員としての最後の課題だ!これからあるモノを君に渡すからそれをクリアするように!!期間は…そうだな、1週間だ。」
「1週間…ですか?わかりました。」
「それと、課題をクリアするまで奴と会う事を一切禁止する!勿論電話もだ!!」
「え?そ…それは…」
「お前らの愛がどれだけ深いが確かめる…この課題はそれが目的だ!!俺が認める『愛』を最上くんがちゃんと取り戻せたか…それを証明するまではラブミー部から卒業出来ないと思え!いいな?」









ローリィはそう言い切ると、葉巻に火をつけた。
そして、キョーコは側近から渡されたあるモノを手に暫く考えていた。





























『…そう。大変ね。あんたも。』
『うん。学校の宿題もあるからあまり進まないんだけど…』









蓮が事務所の廊下を歩いていた時に聞こえてきた愛しい恋人の声。
ローリィはキョーコに課題を出したその日、キョーコが社長室から出て行った後、電話で蓮にキョーコにラブミー部卒業への最後の課題を出したこと、そしてそれを終えるまでは彼女に会ってはならない、電話もしてはならないと告げたのだ。

しかし、人一倍愛情深い夫婦の間に生まれた息子である彼が、1週間も出来たばかりの恋人に会えないばかりか、その彼女と話もせずにいられるわけはなく…。









「今なら恐らくキョーコちゃんはあの部室にいる筈だから…」
「………すみません。社さん。」









仕事場では普通にしていても、控え室に入った途端にどんよりとした重苦しい空気を放出し、明らかにへこんでいる担当俳優を見るに見かねたマネージャーの、慈悲深さから来る行動だった。
会えないのならせめて声だけでも聞かせてやりたい…蓮の長くて辛い茨の道を見てきた社はそう思って椹や松島に見つからないようにキョーコのスケジュールを確認し、彼を連れて来たのだ。しかし…









『ねぇ、モー子さん聞いてもいい?』
『何よ?』
『男の人って寝込みを襲われるの嫌いなのかな?』
『ブーーーーーーーーッ』
『モー子さん、ひっどぉ〜い!!』
『ゴホゴホッ…あっ…アンタが昼間っから過激な発言するからよっ!!』









真剣な声と、明らかに飲み物を口から吹いた音。
二日ぶりに聞いた可愛らしい声に思わず顔が緩んでいた超大物俳優も、愛しの彼女の爆弾発言に思わず顔を強張らせる。









『だって…昨日寝ている彼にキスしたらふられたんだもん。』
『あのね…それ、まだ付き合ってもいないんでしょう?』
『うん。一方的な片思い。でもモー子さんだったらどうする?』
『…そうねぇ…私だったら…』









男二人に立ち聞きされているとは知らない少女は、更に地雷を踏み続けている。









「れ…れん…?(きっ…キョーコちゃあああああんっ!!君、最近になって漸く蓮と付き合いだしたばかりじゃないかっ!それなのにもう浮気?!君達の恋路を蔭ながら見守ってきたお兄さんは悲しいぞっ!!)」
「…………(寝込みを襲う?ふられた?…一体何の事だ!!)」









結局社は、今にもドアのノブに手をかけて乗り込んで行きそうな蓮をぐいぐい引っ張って次の仕事場へと向かわせたのであった。
そして、暫く悶々とした日々を送っていた彼に、漸く解禁日が告げられたのだ。









「思ったより早かったじゃねえか…。」
「へへ…早くクリアすれば早く卒業できると思いまして…」









キョーコはその日社長室に来ていた。
そして、先日ローリィから渡されたあるモノをバッグから出し、側近に渡した。









「それなら、聞かせて貰おうか。まず、最初の選択肢からだ。」
「だったら、同時進行で説明した方がわかりやすいと思いますよ?」
「いや、生憎機材をマリアが持って行ってしまったから、今やろうと思ってもできねえんだ。」
「わかりました。」









キョーコはそう言って、バッグから一冊のノートを取り出した。
そしてその時、蓮も社と一緒に社長室に向かっていた。









「キョーコちゃんは今社長室にいる。彼女が課題をクリア出来たら目出度くラブミー部卒業となるから、それを一緒に見届けるようにってさ。良かったな蓮。」
「…ご心配をおかけしてすみません。」
「良いって!何たって俺はずぅ〜〜〜〜〜っと、お前達の事を見守って来たんだからな。」
「社さんには本当に感謝してます。」









しかし、これもローリィが蓮に与えた最後の課題だったのだ。
そしてそれは数分後の彼等の運命を左右するのである…。









『そうか!あの時誠一は寝たふりをしていたんだな?!』
『そうなんです!!だから、絶対にキスしちゃいけなかったんですよ。だって彼は真面目で誠実でちょっとお堅い青年ですから。』
『まさに目から鱗じゃねえか!それで?』
『それでですね、…………っていう選択肢を選ぶと最初の恋愛イベントが発生するんです。』
『イベント?それはどういうやつだ?』
『えっと…やっぱり口だけでは説明するのが難しいですね…』









蓮と社が社長室に向かって歩いていた時、やたらとハイテンションな二人の会話が聞こえてきた。
ローリィも夢中になって聞いており、説明するキョーコも熱が入っている為気付かないうちにハイトーンになっているのだろう。









「蓮…?(?????恋愛イベント?選択肢?いったい何の話をしてるんだろ?)」
「???(寝たふり?真面目で誠実でちょっとお堅い青年?それに、誠一って誰なんだ?)」









思わず顔を見合わせて頭に疑問符を並べ立てる二人。
それでも歩く速度を緩めずに目的地に向かい、ついにその前まで来たのだが…









『すみません、もう少し屈んで頂けますか?』
『こう…でございますか?最上様。』
『そうです。それで…誠一が主人公を…』
『おお!何という美味しいイベントではないかっ!!それが第三段階になるのか?』
『はい。第三段階を過ぎるといちゃつき度が増す…と言いますか、誠一のスキンシップが過剰になっていくんです。』
『ほう。それでラブラブエンディング…まで突き進むんだな?』
『そうです!でも、ここまで彼に心を開いて貰うのに一晩費やしましたよ。』
『何ぃ?俺が一晩かかっても出来なかった事を最上くんは成し遂げたのか?』
『勿論です!!死ぬ気で誠一の心をゲットしました!!』









バアンッ









「何だ蓮?まだ終わってねえぞ?」
「つ…つつつつつ敦賀さん…!!」









キョーコが言った言葉『死ぬ気で誠一の心をゲット』が、ついに彼の起爆装置のスイッチを押してしまったのだ。
ノックをしなかったばかりか、乱暴にドアを開け般若の形相で駆け込んできた蓮。
そして彼の視界に入ってきたのは…









「こここここここ…これは…ですね。じっ…事情がありまして、かくかくしかじか…」









自分が見知った男に後から抱きつかれているキョーコ。
褐色の肌の彼の顔が彼女の肩にちょこんとのっており、彼の逞しい両腕はがっちりとキョーコの細い身体を抱え込んでいた。









「蓮、まだ最上くんの課題の確認中だ…って!おい!!聞いているのか?」









蓮はローリィの言葉を無視するかのように、彼の側近からキョーコを奪うようにして剥ぎ取ると、彼女の腕を掴んで歩き出したのだ。そして…









バタンッ









「…ちょっと刺激が強すぎたか…」
「旦那様、無理もございません。敦賀様はこの数日間ずっと耐えていらしたのですから。」
「そっ…そうですよ!社長、今更あの二人を拗らすのはいくらなんでも悪趣味過ぎます!!(おっ…俺がここ数日あの男をどうやって抑えてきたかっ!!!)」









蓮がキョーコを連れて出て行った後、罰が悪そうな表情を浮かべるローリィ。
そして、珍しく主人に意見を言う側近と、ムキになって社長に反論する社員。









「ま、ここからが本当の課題だ。」
「「え?」」
「最上くんがちゃんと本当の愛を取り戻せたかどうか、最後まで見届けようじゃねえか。」









そう言うと、ローリィは葉巻に火をつけた。
そしてふりだしに戻る…









「あ…あの、ですから、アレは課題の発表をしていたのであって…」
「……課題?」









時間が経過しても冷気を放出し続ける恋人を前に、怯えながらも説明をするキョーコ。









「たっ…たまたま社長の部屋にゲーム機が無かったので、くっ…口で説明していたんですけど…」
「……………」
「しっ…社長がよくわからないからって…あの…かっ…彼に誠一をやって貰う事になりまして…」
「………誠一って誰?どういう関係?」
「かかかかかか…課題の人物です!」









そう。ローリィがキョーコに渡したのは、かつてクーが来日していた時にローリィがやっていた『メロ甘時々スパイスィー恋愛シミュレーションゲーム』であり、課題はゲームのクリアだったのだ。
勿論誠一とラブラブエンディングを迎える…という条件付きである。









「この数日間………」
「はっ…はははははははぃぃぃぃぃ!!」
「…俺がどんな想いでいたと思う?」
「ごごごごごごごご尤もでございますですぅぅぅぅ!!」
「それなのに…(ぐいっ)」
「っきゃあああああああ!!!ひぃ!おっ…お助けをっ!!まっ…まだ生贄になる覚悟が出来てません〜〜〜〜っ!!」









怒りモード全開のまま、先ほど側近がキョーコにしていた動作と全く同じ行動をとる蓮。
いつもなら顔を真っ赤にしてはにかむキョーコも、流石に大魔王相手ではスケープ・ゴートの如く本気で怯えており…。









「あの状態の蓮を宥める…それが本当の最上くんへの最終課題だ。」
「ご主人様…」
「社長…それはあまりにもキョーコちゃんが可愛そうだと…」
「なあに、大丈夫だろうあの娘なら。(何せ、今まで一度も俺の期待を裏切った事がなかったからな?)ほれ?」
「あ………」
「ほんとだ…」









ローリィが指差した画面を見て納得する彼の側近と社。
そう。彼等が見ている監視カメラの映像には、自分の肩に乗っている蓮の頭をよしよしと優しく撫でるキョーコの姿が写っていたのである。









「頼むから仕事以外で他の男にあんな事させないで?」
「くす…はいはい。」
「いくら社長命令でも、せめて留守録くらいはして?」
「…はい。」
「毎日俺に元気な声を聞かせて?」
「くすくす……わかってますよ。」





























Fin










































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【ジョバンニ様よりありがたきお言葉】


お待たせしました!伽夜様がして下さったリクエスト、
「蓮キョで嫉妬ゆえに大魔王になった蓮とそれを何とか鎮めようと努力するキョーコちゃん」でした。
(書いていくうちに妄想が暴走してしまい、気がついたら、
最後は大魔王から単なる大型犬にまで成り下がったヘタ蓮になってしまいました…汗)
蓮キョという内容だったので、付き合い始めたばかりの二人という設定で書いてみましたがいかがでしょうか?
こちらは相互リクエストの記念に進呈させて頂きますので、煮るなり焼くなりお好きになさって下さい。
そして、今後もお付き合いのほど宜しくお願いしますね?




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【あとがき】




【スタジオ・ジョバンニ】 ジョバンニ様から頂きました相互記念の小説です!


事のはじめは、ジョバンニ様が私のサイトのキリ番を踏んで下さり、
リクエストをしてくださいました!


そのリクエスト小説を書いたらリンクを貼らせてください!と頼んだのですが、
そうしたらお優しいジョバンニ様は、快くOKをしてくださり、
その上、相互記念にリクエストを受けて下さるというじゃないですか!!


目の前のご馳走に飛びつかない筈がない私は、

大喜びでご厚意に甘えさせていただきました!


しかし、素敵な小説ですvv

蓮さんの嫉妬ぶりも素敵ですし、何気に社さんやローリィ、そして褐色肌の青年秘書v

(私的に)おいしいところが勢ぞろいで嬉しい限りですvv



あの恋愛シュミレーションゲームが元ネタとは!!!
素敵です!どうすればあのお堅い“誠一”がオチるのかと思っていましたが、

なるほど……そういうことですか!!!



最後の蓮さんの甘えたぶりも可愛くて、もう何も言えません!!!

こんなに素敵な小説をどうもありがとうございました!宝物ですv大切にしますv



ジョバンニ様!こちらこそこれからもよろしくお願いします!!
また遊びに参ります!!












作成 2008/06/10
更新 2008/06/10 23:21


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